なぜ333メートルなのか
構造が決まると今度は高さが検討された。関東全域に電波を届けるためには塔の高さを300メートル以上にしなければならない。そこに六局分のアンテナを載せると380メートルになる。しかし、強風時のアンテナの揺れ角度の制限等から320メートルくらいに下げざるを得なくなった。
地上風速60メートル/秒、頂部で90メートル/秒の風に耐えうる設計が行われた。着工当時の高さは、塔体260メートルの上にアンテナ部分61.66メートルを加えた321.66メートルだった。
ところが、各局の要望を取り入れようとすると、アンテナが62メートル内に収まらないことがわかり、約80メートルに伸びた。そこで塔体の頂部を一部切除して高さを調整し、塔体253メートルにアンテナ部分80メートルを加えた333メートルに落ち着いた。
前田久吉は、東京タワーの高さが333メートルである理由として、「どうせつくるなら世界一を……。エッフェル塔をしのぐものでなければ意味がない」と記したが、実のところ世界一の高さを目指したためではなく、技術的な要請によるものだった。
このアンテナ部分の高さ変更の裏には、各テレビ局と日本電波塔の間でアンテナの位置を巡る激しい鍔迫り合いもあった。
NHKからの物言い
アンテナの位置が高いほど電波は遠くに飛ぶ。各局にとってアンテナの設置場所は死活問題だった。通常、周波数が大きいものを高い場所に設置するため、日本電波塔は、上から順に10チャンネル(日本教育テレビ・NET)、8チャンネル(富士テレビジョン)、6チャンネル(ラジオ東京テレビ)、4チャンネル(日本テレビ)、3チャンネル(NHK総合)、1チャンネル(NHK教育)にすることを考えていた。
この案に最下段となったNHKが反発した。電波を関東一円に届けることは公共放送の義務であるとして、最上部を要求したのである。日本電波塔の松尾三郎はNHKの永田清会長に面会し説得を試みたが、永田は「一番トップに持っていくなら乗ってやろう」と頑なな姿勢を見せた。
NHKをはじめとする既設局はまだ送信所の移転を決定していたわけではなかった。日本電波塔としてもNHKに利用してもらえなければ、総合と教育の2局分の利用料が手元に入らない。これだけは避けたかった。
苦肉の策で、最上部に1チャンネルと3チャンネルが共用するスーパーターンスタイルアンテナを置き、以下、10、8、6、4チャンネルの順でスーパーゲインアンテナを設置する案をつくり、各社の同意を得ることができた。最終的にNHKが、最も条件の良い最上部を確保することになった。