「現場には“訓練”をしていただく」
前出の1等海佐はじめ複数人の制服組が口を閉ざすこの問いに、ようやく、口を開いたのが元防衛省のノンキャリアのひとりである。長年、東京・六本木、同じく市ヶ谷で過ごしてきた彼は、こう口火を切った。
「今、今日、この時点でゴジラ、それも諸外国やテロ組織の関与がない巨大生物が、わが国領海で傍若無人に振る舞う、それがわが国、国民に被害を及ぼすとなれば、即、対処することは当然だ――」
だが法の壁がある。それについてこの元ノンキャリア氏は、にやっと笑い、次のように言葉を継ぐ。
「現場には、“訓練”をしていただく。訓練で火器を用いた。結果としてゴジラに当たってしまった――かかる責任は防衛大臣、政治家に取っていただく。それがいちばん国家国民にとっていい形ではないですか」
ここまで語った元ノンキャリア氏は、心なしか、ややだらっとした姿勢を取り、私を斜め上に見た視線で、こう締め括った。
「予測のつかない事態、これに責任を取る。そうした大臣がいるかどうか。“対ゴジラ”でもっとも大事なことですよね。わが国はそれが……」
ゴジラの火炎は「摂氏10万度」を超えるが…
時代を問わず難しい問題のようだ。こうした問いをわが国はずっと逃げてきた。そのツケが今、至る所に来ているのが現実だ。
それにしても法的な問題はさておき、今日この瞬間、ゴジラが日本の領海内に現れ、その口から火炎を放射したならば、たまったものではない。諸説あるが「放射火炎」「放射熱線」と呼ばれるそれは摂氏10万度を超えるとされる。
そんなゴジラの火炎だ。精強で鳴るわが国の海上自衛隊といえども、やはり耐えられないだろう――。
こうした話をすると、それまで柔和な表情を崩さず聞いていた技術畑の2等海佐の表情がみるみる曇っていく。そして技術畑とはいえ、やはり武人らしい鋭い目を私に向け、言葉にできない何かを伝えたいのか、喫茶店のテーブルを心なしか軽く叩くようにして手を乗せる。そして言った。
「心配には及ばない――」
どうやら、海上自衛隊の艦船は、ゴジラの放射火炎にも耐えられるようだ。