自民党の狙いは「証人喚問の阻止」

自民と立憲の国対委員長は強大な権限を握り、それぞれの党首の意向や党内情勢、世論の動向などさまざまな観点を考慮しながら、国会日程を相談していくのである。

年度内成立が確実になれば、自民国対は参院審議で野党に譲歩する必要がなくなる。野党国対が裏金議員の証人喚問を激しく求めて審議日程で抵抗しても、受け流しておけば3月31日までに予算案は自然成立するからだ。野党は参院で日程闘争しても意味がないため、与党の要求通りに審議日程を受け入れ、そのレールに乗って質疑していくほかない。

予算案の「年度内成立」の確定は、参院予算審議での疑惑追及を無力化するといっていい。だから自民党は3月2日までの衆院通過に躍起になるのである。3月3日に衆院通過が1日ずれ込むだけで、与野党国対の力関係は激変するのだ。

自民国対が裏金疑惑が最大の焦点となる今国会で最終防衛ラインに据えたのは、証人喚問の阻止だった。ウソをつけば偽証罪に問われる証人喚問に裏金議員が次々に引っ張り出され、野党から吊し上げられる様子がテレビを通じて広く報道されれば、裏金議員たちの政治生命が終わるだけではなく、裏金疑惑は際限なく広がって自民党のダメージは計り知れない。

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野党もマスコミも自民党に乗せられた

証人喚問を避けるための装置が政倫審である。疑惑を抱かれた政治家が自ら釈明する場として設置され、原則は非公開で、出席に強制力はなく、ウソをついても罰せられない。証人喚問に比べて受け入れやすく、ダメージも少ないのだ。

衆院の予算審議が大詰めを迎えた時点で政倫審開催に応じ、それと引き換えに野党に3月2日までの予算案の衆院採決を受け入れさせる――それが自民国対が当初から描いた筋書きだった。

政倫審を最大の見せ場としてショーアップし、政倫審開催を山場として裏金疑惑を収束させていく。そのためには最初から簡単に政倫審開催を認めるわけにいかない。予算審議が始まる当初は開催自体を渋り、次に出席者の数を限定し、最後に完全公開に抵抗する。そのような形で徐々に譲歩していき、衆院採決目前の大詰め段階でようやく「政倫審の完全公開での実施」を容認して、その代わりに「3月2日までの予算案の衆院通過」を立憲にのませるシナリオを着実に進めてきた。

政倫審開催を最大の焦点に据えることで、証人喚問をめぐる与野党の攻防に関心が高まらないようにする世論誘導策に、野党もマスコミも乗せられてしまった感は否めない。