政倫審は完全公開になったけど…
自民国対にとって想定外の出来事は、岸田首相が途中でしゃしゃり出てきて、野党が要求もしていないのに首相自身が完全公開の政倫審に出席する意向を表明したことだった。
岸田首相は自らが率先して動くことで、完全公開での政倫審出席を渋る安倍派幹部らに翻意を迫り、世論の喝采を得ようとしたわけだが、自民国対にとっては迷惑な話だった。もとより立憲国対とは「完全公開」という落としどころは決まっていたからだ。立憲国対に花を持たせるはずの譲歩案を岸田首相に横取りされてしまったのである。
この想定外の事態を受けて、自民国対と立憲国対がどのような密室協議を行ったのかは明らかになっていない。だが、双方は、①2月29日と3月1日に完全公開で政倫審を実施する、②3月1日に立憲は小野寺五典・衆院予算委員長の解任決議案と鈴木俊一財務相の不信任決議案を提出し、本会議場で長時間演説を行って深夜国会に持ち込み、徹底抗戦をアピールする、③3月2日の土曜日に異例のかたちで衆院の予算委員会と本会議を開催して予算案を採決し、同日のうちに参院へ送付する――というシナリオで合意したのだった。
自民国対の完全勝利
この合意は自民国対の完全勝利といっていい。予算案を3月2日までに参院に送付して年度内成立を確定させ、参院予算審議での裏金追及を無力化し、今後の証人喚問要求を突っぱねる環境が整ったからだ。「証人喚問阻止」という最終防衛ラインを守り切ったのである。衆院採決目前の政倫審で裏金疑惑の幕引きを図る筋書き通りの決着といえる。
これに対し、立憲国対はいったい何を目指してきたのか、国会日程闘争の目的がはっきりしない決着となった。3月1日に解任決議案や不信任決議案を乱発し、長時間演説までして審議を引き延ばしたのは、予算案の衆院通過・参院送付を3月3日以降に先送りし、参院審議で「予算案の年度内成立」を人質に取って、裏金議員を証人喚問に引っ張り出すためではなかったのか。
3月2日の衆院通過・参院送付を容認してしまったら、深夜国会に持ち込む審議引き延ばしに実質的な意味はない。単に「立憲民主党は最後まで抵抗しました」という世論向けのアリバイづくりだったと批判されても仕方がない。日程闘争を仕掛けるのなら、3月2日の衆院通過・参院送付を体を張ってでも阻止しなければならなかったのだ。
切れ味を欠いた野党議員の追及
立憲国対は3月2日の衆院通過にあわせて、自民国対と①参院で予算が成立した後、衆参両院で予算委の集中審議を行う、②政治とカネの問題について参考人招致などの協議を継続するとともに、政倫審で申し出のある議員の弁明および質疑を行う、③4月以降、衆院に「政治改革特別委員会」を設置する――などで合意したが、これでは裏金議員の証人喚問は実現しそうにない。