安倍派などの政治資金パーティーをめぐる裏金事件で自民党の派閥政治に厳しい目が向けられる中、支持率が低迷している岸田文雄首相は岸田派(旧宏池会)を解散し、他派閥もそれに追随した。かつて宏池会所属の参議院議員だった大正大学准教授の大沼みずほさんは「派閥解消にはメリットもあるが、一方で自己主張や承認欲求、名誉欲の強い実力のある政治家をまとめ上げていた“教育機関”を失うという大きなデメリットもある」という――。(前編/全2回)
自民党本部
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派閥解消の意義

2024年1月18日、私はある女性議員の宿舎で一緒に鍋をつついていたが、岸田文雄首相が「岸田派を解散することを検討している」と記者のぶら下がりでぶっ放したとの報を聞いた瞬間、口にしていたお酒を思わず噴き出してしまった。

「総理が岸田派(旧宏池会)を解散⁉」あまりに唐突、寝耳に水とはまさにこのことで大きな衝撃を受けた。女性議員も「思い切ったことしたわね」と驚きを隠せない様子だった。

翌日には、安倍派、二階派が解散し、しばらくして森山派が解散をし、他の2つの派閥も政策集団として政治資金パーティーなどは禁止されることから、いわゆる自民党内の「派閥」はなくなる。総理は自ら作りあげたものを壊すことで、他派閥に引導を渡したのだ。

大きな賭けに出たわけだが、派閥解消で、どのような変化がもたらされるだろうか。

まず、議員はより自由にさまざまな政策グループに属し、パーティー券ノルマや派閥の弊害から自由になるだろう。気の合う仲間との勉強会や懇親会はよりオープンで、多元的で多層的なものとなる。派閥は掛け持ちを許さないが、今後さまざまなグループへの出入りが可能となってくることで自民党内の交流が活発になれば、党内もより活力にあふれるものになる。人事も、これまでのように派閥推薦ではなくなるので、党内での部会や調査会、国会対策室や幹事長室などでの働きぶりによって評価され、派閥推薦時代の当選数だけ多い“変な人”が大臣枠に押し込まれることも少なくなろう。

そして新人は、派閥からのリクルートで苦しむこともなくなる。私は参議院議員(2013~2019年)になる前(シンクタンク研究員時代)から岸田会長や林芳正座長、小野寺五典議員などと面識があり、他の派閥からリクルートされない「宏池会の大沼候補」と思われていたようだ。事実、当選した後、同期の議員はいろいろな派閥からの勧誘があり、どこにしようか悩んでいたが、私は清和会(安倍派)や平成研(茂木派)、志公会(麻生派)といった他派閥の議員から「うちにおいでよ」と言われたことはなかった。

ある同僚議員は、地域の事情で本人の意志に関係なく、無理やり入りたくない派閥に入らされたりしていた。先輩議員から「俺のところに来なければ、委員会での役職など徹底的に干してやる」と言われた同僚議員もいた。

派閥の幹部は自分たちの勢力を大きくしたいために新人リクルートに余念がない。しかし、そこに恫喝や嫌がらせが発生していたのも事実である。2つ、3つの派閥の間で迷い、断った派閥の先輩からはにらまれる。そうした意味ですんなり派閥が決まれば問題ないものの、こじれることで政治生活に支障をきたすこともあるのだ。そうした派閥の弊害がなくなることは好ましいことだ。

「政治とカネ」の問題が国民からの大きな不信を招いている以上、襟を正すという意味で派閥解消という決断は間違っていないし、前述のようなメリットもある。ただし、同時にデメリットもある。