「不快にさせてはならない」は危険な発想

ここで強調しておきたいことが、こうした状況で生じる子どもの不快感を「関係性の中で納めていく」という関わりが必須であるということです。「思い通りにならない場面」で不適応を示している子どもの親と接していると、こうした子どもの不快感を「親の関わり方の失敗」と考えたり「不快にさせてはならない」と捉えたりしている人が非常に多いと感じます。

【事例3:炎天下で倒れた母親】

年少の園児。思い通りにならないと他児を叩く、大声で泣くという行動が見られ、そうした行動が一度起こるとなかなか収まらない。家庭では、そうした行動は見られない。いつもお迎えの後、すぐに帰らず近くの公園で本児が「気が済むまで」遊ばせている。ある炎天下の日、本児が「気が済むまで」遊ばせていると母親が体調不良となり、園で職員が介抱することになった。

【事例4:迎えに来る人を指定する園児】

年長の園児。自分が好きではない活動になると教室を出ていこうとする。それを止めると大声で泣き、暴れるという行動が際限なく続く。本児の思うとおりにすると落ち着いているが、保育士が一人張り付くことになるので大変である。ある日、父親が迎えに来るが、本児が「迎えはお母さんが良い」というので、父親は妹だけ連れて帰り、しばらくしてから母親が本児を迎えに来た。

「思い通りにならない環境」に慣れさせたほうがいい

これらの事例は、おそらく多くの家庭にとっては「そこまで付き合わない」「こちらの都合に合わせさせる」という状況だろうと思うのですが、子どもに合わせて親側が我慢したり調整したりしていることがわかります。

こうした事例では、園内での行動について親に伝えても「家では問題ありません」と返されるのが常ですが、子どもに合わせて環境を調整してあげているのですから、家で問題が出ないのは当然といえば当然です。こうした状況で大切なのは、子どもの不快感が生じないように環境を調整するのではなく、「思い通りにならない環境」に出会った時の不快感が親子関係の中で受けとめられ、なだめられながら納めていくことです。

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「迎えはお母さんが良い!」と言われたとしても、「今日はお母さんが忙しいから、しょうがないよ」「我慢してお父さんと帰ろう」と声をかけて連れて帰れば良いですし、その時に生じる不快感を「しょうがないよー」と困りつつも受けとめていけば良いわけです。