次の彼氏も私の母親に気に入られようとしていた

そんなこともしばらく忘れていたら、ある日Kが興奮した顔で言った。「あの化粧品をうちの母さんにあげたんだ。母さんには君がくれたって伝えたよ。どう? でかしただろ?」

いや。
それ、全然ダメダメなんだけど。

私が訝しげな表情で、なぜそれをでかしたと言えるのかと聞くと、彼は「うちの母さんが君に好印象を抱くのはいいことじゃないか」と答えた。

――それがなんでいいわけ?
――いいことはいいことだから。
――だから、何でそれが「いいこと」なのかって聞いてるの。
――後で会うことがあるかもしれないし。
――私はあなたのお母さんに気に入られないとダメなの?
――いや、そうじゃないけど。
――だったら、どうしてあげてもいないプレゼントを噓をついてまで私からだって言って渡すわけ?
――母さんが君に好意を持つのは悪いことじゃない。
――噓をついてまでやることじゃないよ。
――僕は何も悪いことはしていない。
――噓をついたじゃないの。
――そんな噓ぐらい別にいいじゃないか。
……
――バレたらどうするの? また噓をつくの?

結婚と愛はイコールではないはず

私の心が音を立てて崩れた。一つ目の理由は悲しくて。彼は、私の非婚に対する考えを誰よりも尊重してくれたし、私たちはそのことに共感しながら一晩中ワインを飲み、チーズを食べ、キスをしたのに、彼の心の片隅には「ああは言ってても、結婚するかもしれないし」という思いがあったなんて。

二つ目の理由は気の毒で。結婚したいという気持ちがあるのになぜ隠していたのか。これまで、じつは結婚したいんだってどれだけ言いたかったことか。私とつき合っている間、もしかして結婚できないんじゃないかとどれだけ不安に思ったことか。

「結婚したい? 私と?」
「なんでダメなんだよ。男っていうのは好きになった相手と結婚したいもんさ」

その答えを聞いて三つ目の理由になるはずだった申し訳なさが消えた。結婚と愛はイコールではないということを私たちがどれだけ熱く、激しく語り合ってきたことか。あの数えきれない日々の中で私に見せてくれた本心はいったい何だったのか。

私は、彼が愛の結実を結婚だと考えるタイプなのに私のせいで時間を浪費することのないよう、つき合う前から2人で十分に話し合うことに心を砕いたのに、彼はそんな私の本心に耳を傾けながら「タイミングを見計らって結婚しようって言えばいいさ。あいつだってずっとああじゃないだろう」と思っていたのだろうか。