二世経営者が社員に優しくできない理由
政治の世界と同じように、最近は「二世」の経営者が増えています。
ボンボン育ちの二世経営者ほど、コスパ(費用対効果)やタイパ(時間対効果)に厳しいといわれていますが、その割には、労働の対価である給料は意外に上げない傾向があるようです。
仕事の生産性ばかりを気にして、会社が儲かっても、社員の給料をアップしないというのは、あまり健全な考え方とはいえません。
なぜ、二世経営者は社員に優しくないのでしょうか?
その原因は、彼らの多くが経済的に恵まれた環境で育ったため、一般庶民の生活を知らないことにあると思います。
親が普通のサラリーマンだったり、それほど裕福ではない家庭で育った人ならば、給料が上がって喜ぶ両親の姿を見たり、ボーナスが出たから家族全員で焼肉を食べに行くなど、一般庶民のささやかな楽しみを経験しているはずです。
二世経営者にそうした経験が一度でもあれば、「社員の給料を上げた方が消費が増えて、世の中の景気が良くなり、結果的に自分の会社も儲かる」という、ごく当たり前の発想ができるはずです。
彼らには、「会社の外に一歩出たら、社員は消費者になる」というイメージができないのかもしれません。
アメリカの自動車メーカー・フォードを創業したヘンリー・フォードは、見習いの機械工から始めて、会社を起こしたことで知られています。
ライン生産方式によってクルマの大量生産を実現し、一般庶民の間にクルマを普及させたことばかりが注目されていますが、彼の一番の業績は給料を格段にアップさせて、社員や地域、世の中を豊かにしたことです。
クルマの値段を安くするだけでなく、クルマが買える人を増やすことによって、産業構造と社会を変革したから「自動車王」と呼ばれているのです。
会社が持つ技術が向上するから製品が売れるのではなく、人々がお金を持っているから製品が売れるのです。
会社が社員を大事にするから、社員も会社を大事にする
社員の給料を増やすことが最優先の課題だということを理解していないことが、二世経営者が社員に優しくできない一番の原因のように思います。
昔の日本企業は、会社が社員を大事にするから、社員も会社を大事にすることで成り立っていましたが、現在はそうした考え方が根本的に崩れて、優しさのない会社になっています。
日本企業の国際競争力がすっかり弱くなり、海外企業に勝てなくなってしまったのは、こうしたことも少なからず関係しているのではないでしょうか。
こんな時代だからこそ、上に立つ人が、「優しさとは何か?」について、真剣に考えてほしいと思っています。