「あなたの成績が悪いからお母さんとお父さんは恥ずかしい思いを」

ひとつは、コロナ禍によるリモートワークの普及が挙げられます。コロナ禍が比較的落ち着いた現在であっても、オフィスには最小限の時間しか顔を出さず、自宅でリモートワークをおこなうスタイルが常態化した企業がかなりあるようです。わが子と自宅で顔を合わせる機会が増えたのですね。こういう事情から、わが子の中学受験に向けた家庭学習の様子を目の当たりにして、その内容が気になってしまったのでしょう。

二つ目は、先ほど挙げた中学受験情報の氾濫です。わが子の中学受験勉強に親がぴったりと付き添うことで、入試を「成功」させたと自称する「先輩パパ」や「先輩ママ」の発信に影響を受け、わが子の中学受験結果を良きものとするために、先達のアドバイスを参考にして「親塾」を開くようなケースがあるのかもしれません。

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三つ目は、塾の指導システムにるものです。中学受験塾はそれぞれ独自の指導体制を敷いています。たとえば、塾の中に子どもたちを囲い込み、授業外の時間であっても自習室などを活用して勉強する環境を整えているところもあれば、正反対に、「ご家庭のサポート」を前提に、提供するのは授業と教材のみと割り切るような塾も存在します。

後者のタイプの塾にわが子が通えば、塾の学習の予習面や復習面がどうしても家の中に大量に持ち込まれてしまう……毎日親が何らかの働きかけをわが子にしなければその塾のカリキュラムについていけない……そんな事情で「親塾」が始まったのでしょう。

東京都文京区小石川を拠点にする「啓明館東京」で塾長を務める本田直人先生はこの風潮を危ぶんでいます。

「わたしは三五年前から中学受験指導に従事していますが、昔から親が子を教えたがる事例は変わらずありました。しかし、この七~八年くらいでしょうか、親の中には中学受験にどっぷりとかってしまっている人が見られます。そして、わが子の成績が親の評価につながると思い込んでしまっている方が多くなったと感じています」

関西発祥の大手塾で、いまは東京にも進出し、幾つもの校舎を構える「のぞみ学園首都圏」で学園長を務める山﨑信之亮先生はこの弁に同調します。

「たとえば、大企業の社宅で、父親の職階によってそこに住む母親たちのヒエラルキーが決まる……。それに近い感覚がわが子の中学受験に携わる保護者に持ち込まれてしまっているのではないかと危惧しています。成績が良い子の親がそうでない子の親にマウントを取るとか……。そうなると、『あなたの成績が悪いからお母さんとお父さんは恥ずかしい思いをしなければならないのよ』なんて親が無理やりわが子を指導しようとして、わが子の自己肯定感を根こそぎ刈り取ってしまうなんてこともあります。これは大変に罪深い行為でしょう」