悪人に見える人間だって、その奥には「いい面」も潜んでいる

そして年をとってからは、物事の「いい面」を見ることの重要性がよくわかってきました。

その一例として、浜松医科大学で教鞭を執っているとき、こんなことがあったのです。

教え子の中に、東大を中退して入ってきた学生がいたのですが、彼の私に対する態度には、「自分のほうが優れているのに、どうして、この先生に従わなければいけないのか」「いつか追い越して、地位や立場を逆転してやろう」というエリート意識や競争意識に満ち満ちていました。

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しかし、私の立場は指導者です。あの数学の先生の教えに従って、東大中退の彼の攻撃的な物言いも、いい方向に解釈するようにし、「悪いところは見ない」ことを徹底するようにしたのです。

それを実行するようになって、すぐに彼が私に対して好意的になったわけではありませんが、最初は刺々しかった彼の態度も、だんだんと柔らかくなっていき、やがて良好な関係が築けるようになっていったのです。

そしてあるときに彼から、こんなことを打ち明けられました。

「先生、自分はどんな人の言葉も、6割しか信じられません」
「だから、誰ともいい人間関係が築けないんです。先生に親友はいらっしゃいますか?」

当初の敵対的な態度からすれば、驚きの変化でした。

世界遺産にもなっている京都・天龍寺の庭園をつくった鎌倉時代の禅僧、夢窓疎石(むそうそせき)は、「人は本来、仏だ。欠点はあっても、それはそれで欠点の黒い雲のその内側には、きれいな心があるんだ」という言葉を残しています。

悪人に見える人間だって、その奥には「いい面」もちゃんと潜んでいるのです。

そのときどきによって、表面に現れる部分がいい面だったり悪い面だったりするだけなので、私たちは誰かに接したとき、その「いい面」を見つけるようにしていけば、いろいろな人間関係がかなりラクになると思うのです。

私も実際にこのことを心がけると、運勢は次第に上向いていきました。

自分や相手の欠点や失敗は、できるだけ無視すればいいのです。

余計な情報があるほど迷い、心配や不安も多くなる

物事の明るい面を見るようにすると、なぜ運勢が上向くのでしょう?

心理学の世界では、さまざまな調査や検証をしていますが、わざわざそんな小難しい調査をしなくても、シンプルに、「暗い面や嫌な面を見るほどに楽しくなる」という人は、いないと思いませんか。逆に「明るい面」を見るようにしていけば気分も高揚してやる気も湧いてくるのです。

人間関係においても、私の明るい面を見て私を信じてくれる人と、暗い顔で私を疑っている人、どちらと一緒にいたいかといえば、どう考えても前者でしょう。

実際、相手を信じているときの人は、顔つきや声も違うのです。

だから相手も、こちらを疑わなくなります。すると、相手から何かを頼まれたり、何かをしてもらえたりする可能性も高くなりますから、当然、こちらも「得すること」は増えるでしょう。

もう一つ、判断力や発想力などにおいても、「暗い面」を見る人より「明るい面」を見る人のほうが優れた成果を出します。

では、どうすれば、うまいこと明るい面に目を向けられるのでしょうか?

イギリスの作家であり、科学者でもあったオルダス・ハクスリーは、「愛は恐怖を追い出す。反対に、恐怖は愛を追い出す」と述べています。

愛を持って物事を見たら不安や恐怖がなくなり、明るい面が見えるようになり、いろいろなことがうまくいったということです。

彼はさらに、「あらゆることについて知りすぎると、何が重要か判断できなくなる」とも述べています。余計な情報がたくさんあるほど、私たちはいろいろ迷うようになるし、心配や不安も多くなります。

「あの山へ登りに行こう!」
「そういえば、最近あの山で遭難者が出なかったっけ? いや、占いでは明日は登山には吉日だとある。登山者が増えすぎて環境破壊が進んでいるみたいよ。天気予報はバッチリ登山日和となっている。でも、ふもとまで交通渋滞が起きているそうだ」
「いったい、どうしたらいいんだ???」

――こんな具合です。