家治は側室を作るが、男児をもうけることだけが目的だった

意次が側室を迎え、家治は仕方なく側室2人に子どもを生ませた。2人とも男子を生んだので、家治はそこからピタリと側室の相手をしなかったという。ホントに「子作り」が目的だったのだ。

さて、その2人の側室だが、お知保の方(森川葵)とお品の方(西野七瀬)である。

お知保の方は旗本の津田信成の娘で、家治とは同い年。満12歳で大奥に入り「おつぎ」となり、その2年後に「御中臈ごちゅうろう」に出世した。

大奥の序列は、松島(栗山千明)が務めていた「御年寄おとしより」(老女ともいう)がトップで、御年寄の補佐として、その下に「御客会釈おきゃくあしらい」と「中年寄」がいる。中臈はその下で、将軍や御台所みだいどころ(正室)の身の回りの世話をする。当然、将軍の目に留まる可能性が高く、側室の有力候補となる。わずか2年でお次から中臈まで出世するのは破格の待遇で、旗本・津田氏の娘ではなく、家重の側室の縁者ではないかいう説もある。ちなみに、お知保の方の兄の曾孫が、「幕末の四賢侯」の一人として名高い宇和島藩主・伊達宗城だてむねなりである。

橋本(楊洲)周延作「千代田之大奥 御台所のお召し替えの世話をする御台所付中臈」1895年(写真=メトロポリタン美術館蔵/CC-Zero/Wikimedia Commons

お品はドラマで対立している松島の養女になった

一方のお品の方は公家・藤井兼矩かねのりの娘で、正室・五十宮倫子の下向にともない、上臈として随伴してきた。随筆『徒然草』の著者・吉田兼好けんこうで有名な吉田家の支流で、まぁ公家の中でもあまり高い家柄ではないが、そうは言っても公家なので、第1話のように娘が監禁されたら問題になるんじゃないかな。

ドラマ「大奥」では、お知保の方が御年寄・松島派、お品の方は松島と対立していたように見えるのだが、実際は違ったらしい。徳川将軍家の系図をまとめた『幕府祚胤伝そいんでん』によれば、お品の方は松島の養女になっている。「田沼意次は、大いに将来を期し、かねて大奥で第一の権力を握っていた御年寄松島と気脈を通じていたが、このお品の方を松島の養女として家治の側室に奨めた」(高柳金芳『徳川妻妾記』)というのだ。ドラマではどんな展開になるのだろうか。

さて、「大奥」で、家治は「ヘビのような目」をした感情がないサイコパスに描かれていたが、歴代将軍ではトップクラスの好人物だといわれている。温厚で優秀、謙虚でマジメ(政務は田沼意次らに任せて、あまり表に出てこない)。祖父の徳川吉宗はこの孫を溺愛し、英才教育を施したといわれている(吉宗が死去したとき、家治は15歳)。