パラレルワールドのようなフジテレビ版「大奥」
フジテレビ系でドラマ「大奥」が放送中だ。
2023年に放送されたNHKの「大奥」は、よしながふみによる漫画をドラマ化した男女逆転のパラレルワールドだったが、ストーリーは史実に極力沿った形にして、人物像も近年の研究を反映していた。たとえば、ワイロ役人として悪評が高かった田沼意次(當真あみ/松下奈緒)を改革者、清廉潔白と高く評価されていた松平定信(安達祐実)をアタマの固い古い世代の象徴、ノーマークだった一橋徳川治済(仲間由紀恵)が一番のワルだったという具合。
これに対し、同じ時代を描くフジテレビ版「大奥」も、違った意味でパラレルワールドだ。第1話を見る限り、合っているのは名前と役割だけで、研究されてきた人物像と全く異なる描かれ方。大河ドラマ「どうする家康」(NHK)もすごかったが、今回の「大奥」はそれ以上だ。
もっとも、「どうする家康」については「大河ドラマだからもっと史実を尊重すべき」という声に対して、「ドラマだから脚色があっても問題ない」とする意見も少なくなかったので、大河ドラマでもない「大奥」ならば、多少の――実際は“多大なる”だが――の潤色はやむを得ない。青少年向け漫画をドラマ化した「信長協奏曲」や「信長のシェフ」を見るような姿勢で鑑賞しなきゃなぁ。
10代将軍・家治と正室の倫子は夫婦仲が良かったはず
とはいえ、史実(といわれている事象)については書き記しておいても無駄はなかろう。
主人公の五十宮倫子(小芝風花)は、10代将軍・徳川家治(亀梨和也)の正室。これは史実である。第1話では、両者の仲がやや疎遠なものの、家治が倫子に気に留めている風に描かれていた。しかし、実際の夫婦仲は良かったらしい。
将軍家は代々京都の公家や皇族から正室を迎えていたが、家格の釣り合いだけの、典型的な政略結婚なので、まったくの仮面夫婦で、子どももいないという事例が多かった。
そんな中、家治・倫子夫妻には2人も子どもがいた(将軍の正室が子どもを出産したのは2代将軍・秀忠以来、155年ぶりという快挙である)。
夫婦仲が良かったので、家治は側室を迎えなかった。ところが、倫子の生んだ子どもがいずれも女子だったため、周囲は男子を生むべく側室を強要した。家治は田沼意次(安田顕)に「そちも側室は居らんだろう。そちが側室を取ったら、ワシも取る」と反論したらしい。意次は家治の父・家重から律儀者と評価されており、巷間言われているような物欲の塊ではなかったようだ。