それは“恋愛”だったのか

「そんな世の中じゃもう恋愛なんかできない」と言う向きには、「ではそもそも、今まで通りを許される価値観でなければ“恋愛”ができないとこぼすあなたは、これまで本当にお互いフェアな地平に立つ“恋愛”をしてこられたのでしょうか」と聞いてみたい。男性のゲームの中に女性を「賞品」のように招き入れて、男同士で戦利品を自慢し合うような、内輪受けの争奪ゲームを繰り広げてはいなかったですか、と。

ルールはその場を設けた男性側のもの。奢る、仕掛けを張るなど力学差を利用し、女性側が断れない図式にして、合意も不合意も曖昧なままセックスへ追いこむ。それの何が「恋愛」なのだ?

あの告発は、男性のゲームで賞品にされた女性たちが理不尽をのみ込もうと葛藤する8年を経て、今ようやく「ずっと自分がバカだった、自分が悪かったんだと思うようにしてきたけれど、そうじゃないですよね」と整理のついた言葉なのだろう、私はそう感じた。

「お礼LINE」が表すものは何か

「性加害はいじめと同じ力学差を利用した構造である」と、先述した。

A子さんのものとされるLINEのお礼メッセージを見た有識者たちは、一斉にあのメッセージが被害者ならではの自己防衛による迎合である可能性を看破した。相手の感情を害さないよう、自分に言い聞かせるように、もしかしたら震える手で、「ありがとうございました」「あんなにいい思いをさせていただいたのに、理解できない私が失礼なことをして申し訳ありませんでした」「反省しています」「今後ともどうぞよろしくお願いいたします」と携帯に礼儀正しく打ち込む、それは傷を受けた側が自分を必死に守り平常を取り戻そうとする行動である。

その心理を理解する男性が、ふと言った。「いじめられっ子がボコボコにされたあと、いじめた側に一瞬『へへっ』と見せるへつらい笑いと同じものですよね。やっと終わった、もうしないでね、と、その場をしのぐために見せる、そういう笑いってありますよね。だからって『お前も楽しんでいただろ、だからいじめじゃない』って話じゃないですよね」