「戦略は万能」は大間違いである
万能説というのか、たとえば「気功」では、気を流すと病気が治るといわれている。これはたぶんウソではなくて、気功が非常によく効く人もいるのだと思う。
しかし、これがエスカレートして、気功をマスターすれば病気など何でも治る、ガンも治ってしまうということになったら、明らかにウソである。
ガンを予防する紅茶キノコ、野菜スープ、トマトさえ食べていれば大丈夫、こうした類の万能説はあとを絶たない。そして、溺れる者は藁をもつかむで、この間違った万能説が意外なほど世に受け入れられたりするのだ。
戦略もこれと似たところがあって、戦略さえあればもう大丈夫、落ち込んでいたウチの会社もこれで一気に復活だね、というわけにはいかない。
BCGの創業者ブルース・ヘンダーソンも同じく、戦略は万能ではないといっている。
そもそも、戦略コンサルティングというコンセプトを最初に提唱したのは、ブルース・ヘンダーソンである。
彼は、自分が生み出した戦略コンサルが周りの誰にも受け入れられないのに苛立って、ではオレがその効用のほどを実証してみせてやろうじゃないかと、それまでいたコンサル会社を飛び出してBCGを創業した。
結果、ヘンダーソンの信念は見事に証明されて、BCGはみるみるめざましい躍進を遂げた。
戦略は二番目に大事。一番大事なのは…
最初は冷ややかな目で見ていた他のコンサル会社も、これを静観しているわけにはいかないと、いっせいに追随して戦略コンサルに参入した。かくして、いまでは世界中のコンサル業界が、例外なくすべて戦略コンサルで商売するようになっている。
世界のコンサル業界を変えてしまったほどのコンセプトをつくったヘンダーソンが、その著書の中で、ビジネスで成功するには何が必要かと聞かれて、「成功の一番の鍵は運である。そして二番目が戦略だ」といっている。
二十数年前にBCGに入社したとき、創業社長ヘンダーソンの著書からこの言葉を見つけた私は、ああ、この人いいことをいうなあ、と大いに感心したものだ。
たしかにそうである。戦略があればビジネスは成功するのかといったら、それはウソだ。戦略はビジネスにおいて1、2を争う大切な要素だが、運も大切だろうし、他にも大切なことがいくらでもある。
すなわち、戦略は万能ではないのだ。