同じ提案でも中身が全く違う

対して、ある別の担当者もお客さんに「業界5位のB社とのM&A」を勧めたとする。ところが、じゃあ、これも戦略ではないんだな、と思ったら大間違い。結果として同じ提案になったとしても、実はこちらは立派な戦略だった、ということがあるのだ。

この担当者は、『会社四季報』や『マーケットシェア事典』を見たところまでは同じでも、そのあとが違った。

彼は、たしかに2つの会社のシェアを足せば1%の差で業界一位になれるが、それは単に表面上のことにすぎないことを知っている。だから当然のこととして、2つの会社の内容をつぶさに分析してみた。

たとえば、両社の経営資源にはどういう重なりがあるか。一緒になると余分になるものが出てくるケースは当たり前にある。M&Aとなれば、そういうものは切り捨てないといけないかもしれない。逆に、M&Aによって両社の強みと弱みをうまく相互補完できて、労せずして企業体力がグンと増す部分だってあるだろう。

もちろん、M&Aをする際のコストの問題、それ以前に業界1位になることでほんとうにメリットがあるのかなどの業界特性や経済性、販売チャネルなどを考慮に入れて分析しておくべきことは他にもたくさんある。

そういうものをあらゆる角度から考えてみたら、この二つの会社は意外なほど相性がいい、ということがわかった。

こうしたさまざまな熟慮の結果として、彼はお客さんに業界5位のB社の企業買収を提案した。

これなら、立派な戦略である。

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戦略に対する2つの誤解

Aの提案は前者だったか、後者だったのか。

AはDIで活躍しているのだから、答えは後者ということになる。

前者のような提案は、単なる表面的な「思いつき」でしかない。後者の、Aがしていたような、あらゆる角度からの調査、検討、分析がなされていることで、提案に「深み」があって初めて戦略と呼ぶに値する。

戦略に対する誤解を生んでいる原因の1つがこれだ。

同じ提案であってもお手軽な思いつきにすぎない粗製濫造のもの、よく練られていて立派な戦略になっているもの、世の中にはこの2種類が混在していて、それが物事を難しくしている。冷汗、脂汗を流して知恵を絞り、全身全霊を傾けて戦略を立てているつもりの私たちにとっては、なんとも迷惑な話である。

よく考えられた戦略は、壁にぶち当たって低迷していた会社を劇的に甦らせるだけの、驚くべき力を持っているものだ。私はこれまでのコンサルタント生活を通じて、そういう事実をたくさん見てきた。

そんなときお客さんからは、経営コンサルタント冥利みょうりに尽きる、というほかないほど感謝されることにもなる。

かといって、戦略というものは万能ではない。

これが、戦略に対する2つ目の誤解である。