戦略なき小さな会社は危険すぎる

意外な答えだと感じて当然。経営戦略のプロである私たちも、頭ではこれを理解してはいたが、ほんとうにしみじみ「わかった」(=理解する×こなれる)のは、DIでベンチャー育成を実際に手がけてみてからなのだ。

ベンチャー企業の人たちは、だいたい「やるべきことはわかっているが、人がいないのでできていないだけ。戦略より営業を紹介してくれ」と考えている。

ちなみに、コンサルティング会社が売る戦略は安くはない。いや、一般的にいえば高い。だからベンチャー企業だと、戦略に予算をかけようとはなかなか考えづらい、という現実もある。

しかし、ほんとうはそれではダメなのだ。

ベンチャー企業のような小さな会社ほど、あらかじめキチンとした戦略を立てて経営に当たらないと、それこそちょっとした風に吹き飛ばされてあっけなくポシャッてしまうことにもなりかねないのである。

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このことは、以下に記していく話を読んでいただいた後なら、まさに「しみじみ」わかっていただけると思う。

それでも、使える資金が少ない企業には戦略立案料が高くて払えないという問題は残るが、これも大丈夫。コンサル会社に戦略を発注する資金的余裕がないなら、あなた自身が戦略を立てて会社に提案すればいい。

これならタダだし、もちろんのことあなたの評価は大いに高まる。もちろん、コンサル会社によっては、対価を成功報酬やストックオプションなどで受け取るところもあるので、キャッシュが苦しいベンチャー企業でも検討してみることは可能だ。

人により大きな差が生まれる「戦略」の本当の意味

ところで、まずは素朴な疑問。いまでは戦略という言葉が当たり前のように使われているけれど、みなさんほんとうに戦略の意味をわかって使っているのだろうか。

というのは、戦略を定義しようとすると、意外と難しいのである。

だから、そもそも戦略って何なんだ? ここから入ってみたい。

実は、DIを立ち上げてしばらくして社員募集をしたとき、経営コンサルタントの経験者だけでなく、さまざまな業界からいろんな人が応募してきた。そんな中の一人に、ある大手の投資銀行から転身してきたAがいる。

Aが「実に面白いんですけどね……」と語ってくれたところによると、彼が投資銀行でM&Aの仕事をしているとき、お客さんに対して「ウチは戦略的アドバイスを含めてM&Aをお勧めしています」といっていたらしい。

面白いというのは、その「戦略」なるものに、人によって大きな差があるというのだ。

たとえば、その投資銀行は、ある業界シェア3位のメーカーに対して、「業界5位のB社と一緒になれば、シェアが増えて業界1位になれますよ」とアドバイスしたことがあった。さすがにこれだけでは、いわゆる戦略なのかどうかの判断はちょっと難しい。

そこで、ちょっと中身を見てみる。

その投資銀行のある担当者は、今日は業界3位のメーカーがお客さんだからと、『会社四季報』と『マーケットシェア事典』を引っ張り出して眺めた。

すると、かの3位企業のシェアは17%で、1位企業は25%であった。さらに、2位企業以下はシェア争いが混沌としていて、2位19%、4位14%、5位9%、6位7%……と続いていた。

当然のことながら、5位以上の会社と一緒になれば、単純計算でシェアが25%を超え、業界1位になれることは誰にでもわかる。

自分のところより下位はM&Aの対象にできるとしても、シェアが拮抗きっこうしている4位企業を無理矢理に買収するのは決心しづらいかもしれない。じゃあというんで、彼は業界5位のB社とのあいだのM&Aを提案することにした。

これは戦略じゃありません、断じて。