経済政策の目標はあくまで「失業率ゼロ」
「現代に見られるような経済成長が始まったのはたかだかここ200年ほどの歴史である。経済成長の鈍化はむしろ経済の正常化だ」という意見もよく聞きます。「経済成長よりも大切なことがある、日本はゼロ成長でいいではないか」という何かしらロマンチックに聞こえる意見は、特にテレビのワイドショーでウケがいいようです。
これらの意見は、「どんどん上がれ、失業率!」と言っているのと同義です。経済政策においては、マクロ経済学の理論に基づき、「失業率を極限まで低くすること」が最優先されます。「食えない人」を最小限にまで減らすということが国民に対する国家政府の責任であるということです。
そのためには経済成長が必要です。これは、アメリカの経済学者アーサー・オークン(1928~1980年)が1962年に発表した「オークンの法則」に基づきます。「経済成長率と失業率の間には負の相関関係がある」という法則です(図表1)。
経済成長をせずに失業率を減らすのは不可能
経済が成長すれば、つまり景気が良くなれば雇用も増えて失業率も下がるだろうというのはなんとなく予想のつくことです。「なんとなく」というのを法則化したのがオークンでした。
オークンは経済成長率と失業率を単純に並べるのではなく、失業率の前年との差を出してから分析するという方法を採りました。「差」に注目するのは統計学の一手法で、より純化された数値で現象を捉えるということです。各国のデータを集めて、それぞれの経済成長率と失業率の前年との差の相関関係を調査したところ、多くの国で経済成長率と失業率の間に負の相関関係が見られました。
経済成長をせずに失業率を減らすことはほぼ不可能です。経済成長つまり豊かさの減少は失業者の増加を意味します。2020年は失業率が7カ月連続で悪化して、同年8月に3%台に上ったことがありました。同年は自殺者が増加傾向にあり、4カ月連続で増加して10月は前年同月よりも約600人多い2158人となったという事実もあります。