それでも目安を伝えることは必要
余命告知のデメリットは他にもあります。「標準医療以外の代替医療が効いた」という誤認が、不適切な余命告知によって生まれることが多々あるのです。つい最近も、副作用がないと称するある抗がん剤治療によって「余命は3カ月だったが7カ月後に看取られた」という記事を読みました。その治療のおかげで延命したかのように書かれていましたが、まったく効果がなくても、余命3カ月と告知された患者さんが7カ月間生きることはめずらしくありません。記事にはその治療で4割程度は延命できたともありましたが、生存期間中央値を余命として告知されたのであれば、何もしなくても5割の患者さんが余命より長く生きます。
しかし、誤解を招くからといって、余命について何も説明しないわけにもいきません。こんなことがありました。転院してきた終末期のがんの患者さんが「そんなに長生きできなくてもかまいません。あと10年も生きられれば満足です」とおっしゃったのです。その時点での余命予測は数カ月間くらいでした。前の病院で具体的な予後を説明されていなかったのか、説明されていたけれども受け入れが不十分だったのかはわかりません。
いずれにせよ、数カ月以内に亡くなる可能性が高いのに、あと10年間は生きられると患者さんが誤解している状態はよくありません。死ぬ前にやりたいこと、終わらせておきたいこともあるでしょう。病状が悪くなってから「こんなはずじゃなかった。なぜ早く教えてくれなかったんだ」と後悔されるかもしれません。実際、病院と医師が、患者さんの遺族から「余命を告知されなかったせいで、残された時間を充足して過ごせなかった」と訴えられた事例もあります。大まかな目安としての余命を伝える努力を怠るわけにはいかないのです。
患者さんに合わせて対応するべき
具体的な数字を告げるのを避けながら余命の目安を伝えるために、オブラートに包んで伝えるのはよく使われる手法です。たとえば「来年の桜を見るのは難しいかもしれませんね」などと表現すれば、余命が1年以内であろうということは伝わります。ピンポイントではなく「あと3~6カ月くらいだと思われます」などと幅を持たせることもあります。
それでも一定の確率で予測は外れますので、その点についても正直に丁寧にご説明します。いずれにせよ決まったやり方はなく、患者さんに合わせて個別に対応することが大切です。また少数ではありますが、余命告知をしてほしくない患者さんもいらっしゃいますので配慮が必要になります。実際の臨床では、ドラマチックな「余命宣告」の場面は必ずしも存在せず、何度も患者さんとコミュニケーションを取るうちに、少しずつ余命についての共通の認識が形成されていくことも多いのです。
数年間から数カ月間といった比較的長い余命予測だけでなく、あと数日といった短い期間の余命予測もしばしば外れます。短い期間の余命予測はご本人ではなく、お看取りに同席したいご家族に向けてのものです。食事が入らなくなって意識レベルが低下し、尿量が少なくなってきたら、あと数日だろうと判断してご家族をお呼びするのですが、その見極めは困難です。ご家族が病院に到着される前に心肺停止した、なんてことがないように余裕を持って早めにお呼びすると、ご家族が集まってから病態が持ち直すことがあります。やはり、正確に余命を当てることはできないのです。