ロイター通信によると、パンジャブ州、ハリヤナ州、ウッタルプラデシュ州などインド北部では、10月になると農家が、作物を収穫した後に残る切り株やつるなどの「残渣ざんさ」を焼却しており、これが汚染悪化の大きな要因となっている。

ほか、ニューヨーク・タイムズ紙は、気温の低下も大気汚染の深刻化を招くと指摘している。インドでは毎年、気温が下がる10月から翌年1月頃までにかけ、大気質の悪化を繰り返している。気温が低いこの時期、ふだんは高度1~2キロまで広がり地表の活動の影響を受けやすい「大気境界層」の厚みが薄くなる。通常よりも狭い領域に汚染物質が閉じ込められることで、大気中の汚染物質の濃度が上昇する。

激増する車、急速な工業化…

より長期的な視点では、工業化も汚染拡大の要因となってきた。BBCは、インドでは過去20年間、工業化と経済発展、そして化石燃料の使用量の増加により、大気汚染レベルが急激に上昇したと指摘する。道路を走る車の数は、ここ20年間でかつての4倍にまで増えたという。

BBCはまた、これとは別の記事を通じ、ディワリ祭もスモッグを招いていると報じている。10月末から11月初旬にかけて続くこの祝祭では、大量の爆竹が使用される。10月以降、作物残渣の焼却に気温の低下、そしてディワリ祭と、大気汚染を加速する出来事が重なることで、日頃から深刻な汚染をさらに悪化させている。

街角に巨大な空気清浄機を設置してみたが…

インド政府や自治体は数々の“奇策”を打ち出しているが、いずれも決定的な成果を上げるに至っていない。

デリーの商業地区「コンノート・プレイス」には、公害対策用に特別に設計された高さ24メートルの巨大な空気清浄棟「アンチスモッグ・タワー」が設置されている。タワーには40台の大型ファンが据え付けられており、キャノピー構造の上部から空気を吸い込み、フィルターを通過した空気を下部から放出する。いわば、巨大な空気清浄機を設け、街の空気を丸ごと浄化しようという発想だ。2020年、2億5000万ルピー(約4億4000万円)をかけて完成した。

写真=AFP/時事通信フォト
2021年8月23日、ニューデリーで、汚染シーズンに空気を浄化するために建設された高さ25メートルの「アンチスモッグ・タワー」の前に立つ作業員たち。

だが、ヒンドゥスタン・タイムズ紙によると、このタワーの効果は極めて限定的のようだ。インド工科大学ボンベイ校の研究によると、空気質が顕著に改善された領域は、わずか半径20メートル以内に留まった。この範囲を出ると効果は著しく減少することが確認され、風下方向におよそ500m離れた地点では、粉塵と超微小粒子状物質の量が18%改善したに留まったという。18%の改善は吉報とも思われるが、依然としてPM2.5の濃度は217.1μg/m3と、安全基準値の5.4倍に相当する。さらに、タワーの風上方向では、改善はほぼ観測されなかった。