農家が減っても農業生産額は変わらない

日本経済新聞や三菱総合研究所の間違いは、次のグラフ(図表1)から一目瞭然だろう。農業生産額は農業就業者ほど減っていない。ということは、一人当たりの生産額は大幅に上昇していることを示している。

NHKスペシャルの前提は完全に間違っているのである。それだけではない。内容に大きな矛盾があるうえ、公共放送なのに国民が知るべき重大な問題を避けている。

農業保護強化を訴える報道になっている

NHKスペシャルの概要を紹介しよう。

米は国民の供給熱量の2割を占めていることを紹介したうえで、収益の低下や高齢化で、農地の耕作放棄が増えていると指摘する。外国からの労働力に頼ろうとしてもヨーロッパの賃金が高いので日本に来てくれなくなっている。農家に高い米価を保証していた食糧管理制度が廃止されてから米価は大幅に低下している。規模を拡大すると10ヘクタールまではコストは低下するが、それ以上になるとコスト削減は頭打ちとなる。スイスでは農業保護を憲法で規定している。また、いくつかの地方で、農家に高い価格を払って有機栽培米を学校給食で供給しようとする動きがある。さらに、農家と消費者が対話する“自給圏”という考えを紹介している。

つまりNHKスペシャルは「農業保護」の必要性を訴えている。これは、農業界が食料自給率を問題視するときと同じやり方である。食料自給率が38%で海外に6割以上を依存していると言えば、国民は「農業保護が必要」と受け止める(参考記事 「台湾有事が起きれば日本国民は半年で餓死する…『輸入途絶の危機』を無視する農林水産省はあまりに無責任だ」。

食料自給率向上や国消国産を唱えるJA農協とNHKは親密である。一緒に、日本農業賞や食料フォーラムを開催している。このNHKスペシャルにもJA農協の関係者は多く登場しているし、最後に登場した鈴木宣弘氏は東大農学部教授でありながら長年JA農協の研究所長を兼務していた。

農家戸数を減少させて農家の規模拡大を図るという構造改革に反対し、小さな農家も含めて農家を丸抱えしようとするのもJA農協の主張である。“自給圏”はJA農協の国消国産を想起させる。NHKスペシャルの内容は、JA農協の主張とそっくりなのだ。