●「場所」を変える

たとえば、レジ前で怒っていたら「お話をゆっくりお聞きしますから、応接室に行きましょう」と別の部屋に連れていきます。

これは、他のお客さんがいるところでレジ前を長時間占領するのを避けるためというだけでなく、移動している間に冷静になってもらうためです。歩きながら怒り狂うのは難しいので、ゆっくり歩いて別の場所に移動してから話を聞くようにします。

これもマニュアルに明記しておきます。従業員が、ほかのお客さんがいるような場所で怒鳴られ続けて、サンドバックのようになるという状態は、絶対に避けましょう。

●「時間」を変える

「人」「場所」を変えて、それでもおさまりそうもなければ「時間」を変えます。つまり「今日はこれ以上の対応が難しいので、後日あらためてお話を聞かせていただきます」と、別の日に話を聞くことを提案します。これは「話を聞かないわけではありませんよ」というメッセージになります。

そこまですると、さすがに相手もクールダウンするでしょうし、別の日に出てくることが面倒になってくる可能性もあります。要求もある程度、現実的なところに落ち着いてくるでしょう。

くれぐれも、最初に対応した人が、同じ場所で延々と怒鳴られ続けたりすることのないように、店や企業として、詳細なマニュアルを作成し、研修を行うなどして対応法を周知してほしいと思います。

ただ、特に小規模な店舗などでは、「人」を変えようとしても、交代する相手の上司がその場にいないこともあるでしょう。判断を仰ぐ相手がいない可能性があるときは、「私の一存で拒否していいのだろうか」「会社に迷惑をかけるかもしれない」と悩んでしまいます。ですから、理不尽な要求を受けたときに、従業員の誰もが「当店ではこれはできません」「弊社では禁止されています」と拒否できるよう、「ここからは拒否してよい」という基準を定めたガイドラインをつくっておいてください。

たまたま自分が聞いているが、自分に非があるわけではない

しかしながら、いくら会社がマニュアルをつくって対策を取っていても、カスハラを受けた本人は精神的にダメージを受けてしまいます。

自分の心を守るためにも、カスハラをしてくる相手とは、距離をとることを心掛けてください。「人」「場所」「時間」で物理的な距離をとりながら、精神的な距離もしっかりとることです。怒られたり怒鳴られたりしても、言われたことを真に受けて自分に非があると受け止めないことです。

表面上は、相手の話を丁寧に聞いているふりをしながらも、頭では淡々と受け止め、上の人に引き継ごうという気持ちを持って対応します。いざその場になってみると、簡単なことではありませんが、少なくともあらかじめこうした心構えを持っておくことは、自分を守ることにつながります。

相手の不満や主張は、たまたまその場にいる自分が聞いているけれど、本来は会社に対する文句です。従業員1人で抱えるべき問題ではないのです。