性別を逆にしたら、これは事件になる

ただ、これまで例示したのは男性が「さわられる側」だが、性別を逆にした場合でも同じことが言えるだろうか。

もし同様のテレビ企画のドッキリ番組で、若い女優にたいして男性ファンが一方的に身体に触ったり抱きついたりなどすれば、これは放送事故ではすまない事態となるのではないか。じっさい先日、ライブ会場で韓国の女性DJがファンに胸を触られるという事件が発生し、大きな問題となったことは記憶に新しい。

医療・介護の現場においても、男性の看護師や介護士、医師が職場で異性の患者や利用者、スタッフから性的嫌がらせを受けている実情は大きく取り上げられることはないが、男性の患者や被介護者による女性医師・看護師・介護士へのボディタッチは「おふざけ」では許されない「性暴力」として、今や大きな社会問題だ。

写真=iStock.com/Ridofranz
※写真はイメージです

ここで誤解してほしくないので念のために申し添えておくが、当然ながら私は「女性は加害者となっても許されるのに、なぜ男性の場合は許されないのか」と述べたいわけではない。

「女性であっても男性であっても、承諾を得ないまま勝手に相手にさわるという行為はすべきではない」と言いたいのだ。加えて、この行為は同性にたいするものであっても当然ながら許されない。それはジャニー喜多川氏による「性暴力事件」からも明白だ。

人に触れざるをえない医療・介護の現場ではどうするか

さらに言えば、それが明らかな性的な意図を持った行為であろうとなかろうと、触る部位が身体のいかなる部分であろうと同じだ。「さわられる側」が不快と感じるならば、それはすべて許されない行為である。

行為者に「悪気がなかった」としても、それもまったく言い訳にはならない。芸能人や力士に触る人たちも、もちろん嫌がらせではなかろう。「記念に触る」というのは身勝手な我欲に他ならないが、「応援してますよ」という好意の表現であるとは信じたい。

だがいくら好意の表現であろうと、「さわる」という行為自体が、つねに「さわられる側」にとっては「暴力」として受け止められかねないものであるということを、男女を問わず認識しておかねばならないのである。

一方で、当然ながら医療や介護の現場では、この、人を不快にさせかねない「さわる」「ふれる」という行為が必要となるケースは日常的にある。むしろ人を快適に導く効果が期待できる場面さえ少なくない。

医師による「触診」をはじめ、看護師によるケアや介護士による介助も、患者さんや要介護者を「さわる」ことなしにおこなうことは不可能である。