そもそも論です。皇位継承資格者が多すぎて、ありがたみがあるでしょうか。現代のイギリスには、二〇一三年の王位継承法改正で性別に関係なく長子相続する、つまり女系継承が認められています。
さらにカトリック教徒にも継承権が認められたりなどして、一説に王位継承者が五七五三人いると言われています。その中には単なる一般人もいます。「日本をイギリスのようにしよう」と主張する人がいますが、何の為に?
そんなことより、古代の知恵です。
なぜ中国は王朝交代が頻発したのか
王様とは、本来は権力を振るう人のことです。いちばん偉くて権力をふるう人の候補が多すぎると王位をめぐる争いが激烈になります。その典型が中華帝国でした。
中華帝国においては、中国人全員に皇帝になる資格がありました。前漢の初代皇帝である劉邦(紀元前二五六または二四七~同一九五)は農民の生まれでした。また、明の初代皇帝である朱元璋(一三二八~一三九八)は流民の生まれでした。
それどころか外国人にも、中華皇帝になれる資格がありました。元はモンゴル人の帝国でしたし、清は満洲人の帝国でした。ちなみに女性で中華皇帝になったのは、唐を周に改めて帝位に就いた則天武后(六二四~七〇五)ただ一人です。女性にも皇帝となる資格があったということであり、「中華帝国の皇帝の候補者は全人類だった」ということになります。
だから中華帝国は権力争いがことのほか激烈であり、王朝が滅ぼされて新王朝に取って代わられるということが繰り返されました。ただし、取って代わって王朝を築いた人間は帝位を世襲にします。
なぜかといえば、世襲であれば、いちばん偉い人の数が絞られるからです。資格者が多すぎるのは不安定になるので、前近代では戒められました。世襲とすれば安定し、近代になると世襲されて続いてきた王室は、伝統として有り難みがある、と解釈されました。
したがってイギリスのように王位継承者が五〇〇〇人以上いるのは、有り難みがない、ということになります。多すぎず少なすぎずという状態を続けなければいけないので皇位継承問題はたいへんなのです。
「男性排除の原理」によって安定した皇位継承が図られた
ここで、おそらくは誰もが疑問に思うことです。「なぜ天皇は男がなるのが普通なのか」。この答えは実は簡単で、「男の側室には意味がないから」です。
本当の意味での「女系」は、母から娘、母から娘とひたすら続けていかなければいけません。男は子供を生むことはできませんから、男の側室には意味はありません。だから男が皇位を継いでいくのです。
そして我が国では、男は皇統に属していなければ天皇どころか、皇族にもなれません。生まれながらの人でなければ、どんなに武力や財力があろうとも皇族にはなれないのです。つまり皇室は、男性排除の原理によって皇位継承の安定を図ってきたのです。