英語で何ができるようになりたいかで学習方法は変わる

転移適切性処理説は非常にシンプルですが、英語学習に関して多くの示唆を与えてくれる、とても強力な理論です。例えば、筆者の専門分野は外国語の語彙習得であるため、「英単語を覚える最も良い方法は何ですか?」とよく聞かれます。その答えは、「英単語のどのような知識を覚えたいかによる」となります。

中田達也『最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法』(KADOKAWA)

例えば、英単語のスペリングを身につけたいのであれば、スペリングに注意を払って何回も書く練習が必要ですし、英単語の発音を身につけたいのであれば、発音を何回も聞いたり実際に発音したりする練習が必要でしょう。

さらに、英単語をスピーキングで使う能力を高めたいのであれば、学習した単語を実際にスピーキングで使う練習が必要で、英単語をライティングで使う能力を高めたいのであれば、学習した単語を使って英作文するのが効果的でしょう。

同じように、「英語を習得する最も良い方法は何ですか?」という質問の答えは、「英語のどのような知識・技能を身につけたいかによる」となります。日常会話を聞き取る能力を高めたいのであれば、日常会話を聞き取る練習が必要ですし、学術的な内容について読み書きする能力を高めたいのであれば、学術的な内容について読み書きする練習が欠かせません。

理解できない内容を聞き流しても雑音にしかならない

「聞き流すだけで英語が話せる」という主張が怪しい理由は、他にもあります。それは、意味のわからないものを聞いても意味がないということです。例えば、英語のインプットがいくら重要だといっても、アルファベットを習いたての中学生にBBCの英語ニュースを聞かせる人はいないでしょう。ニュースで用いられている単語や文法は中学生には難しすぎるため、雑音にしかならないからです。

英語を学習する上で、たくさんのインプットが必要なことは事実ですが、それは「理解できるインプット」(comprehensible input)である必要があります。

もし、インプット中に理解できない単語や文法事項があるのであれば、「文脈から推測する」「理解できるまで、何度も繰り返し聞く」「スクリプトや和訳で内容を確認する」などして、理解できない箇所を理解できる箇所に変えていく必要があります。あるいは、知らない単語や文法事項がほとんど含まれておらず、一度聞いただけで内容が理解できるものを聞くのも良いでしょう。

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