ダミー会社で西側諸国からの制裁を逃れる

さらにCBSの取材により、木材の輸出に関してもダミー会社が用いられていることが明らかになった。伐採権を持つワグネル企業のボイス・ルージュ社は、表向きには木材を中央アフリカ国外に輸出していない。CBSが追跡した木材は書面上、カメルーンからウッド・インターナショナル・グループと称する企業が輸出したことになっている。

だが、調査の結果、ボイス・ルージュ社とウッド・インターナショナル・グループの登記上の住所は同一であり、許認可番号も同一のものを使用していることが発覚した。「調査を逃れるため、フロント企業の名前を変える。これもまたプリゴジンの裏技だ」と記事は指摘する。

CBSニュースは、プリゴジン氏とワグネルが多数の架空企業に関与しており、これらはクレムリンの戦略の一部だと論じている。ワグネルはアフリカ大陸で同盟の輪を広げつつ、天然資源をほしいままにし、西側諸国の厳格な制裁から逃れる新しい方法を模索している――との指摘だ。

エフゲニー・プリゴジン氏(写真=УлПравда ТВ/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

ウクライナ戦争の資金源になっているとの指摘も

ワグネルの活動はウクライナ戦争の資金源になっているおそれがある。米CBSニュースは、ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始して以来、最も血なまぐさい戦闘の多くは東部バクムート周辺で起きていると指摘。こうした戦闘員の多くはロシア兵ではなく、ワグネルから報酬を得ている傭兵だと述べている。

ワグネルが大量の傭兵を雇うには、相応の資金が必要だ。CBSニュースは独自に追跡調査を行ったうえで、ワグネルが中央アフリカの政府に味方し、見返りとして現地の金鉱の利権や木材伐採の許可などを取り付けていると報道。また、ワグネルは戦闘員をアフリカに派遣し、現地政府に対する騒乱の抑制をビジネスとして請け負うことで、ウクライナ戦争での「活動資金の大部分を賄っている」と記事は分析している。

「アフリカの巨大利権」はプリゴジンからプーチンへ

プリゴジン氏の死後、ロシアの影響力はどう変化するだろうか。米CNNは「モスクワが放ちたいメッセージは、『平常通りである』ということのようだ」と指摘。アフリカにおけるワグネルの活動をロシアが引き継ぎ、中央集権化すべく整理が進められていると報じている。初期からの取引相手国のひとつ、中央アフリカでは、ロシア政府が戦闘員との契約を更新し、主要都市に集約することで運用コストを軽減するよう、再編活動を積極的に進めているという。

米ワシントン・ポスト紙も、中央アフリカ共和国の当局者による情報として、現地にいる1000人以上の傭兵をロシア政府が直接管理する体制に移行しつつあると報じている。

さらにプリゴジン氏の死後、ロシアのユヌス=ベク・エフクロフ国防次官と、軍参謀本部情報総局(GRU)で秘密作戦部門を統括するアンドレイ・アベリャノフ氏は、そろってアフリカ諸国を訪問している。ある西側政府当局者はワシントン・ポスト紙に対し、訪問の主な目的は、「プリゴジンの広大な帝国は、いまや政府の管理下にある」とのメッセージを発信することだろうとの観測を示した。