日本で生産する選択肢はなかった
──環境に関心が強い消費者ばかりではない。新興国でもエコカーは売れるのか。
益子 原油価格が上がると、低燃費な車が必要とされてきます。お陰様で、ミラージュはタイで好調です。
──ミラージュをタイで生産するという選択に迷いはなかったのか。
益子 日本で生産していれば「空洞化する」と言われることはなかったでしょう。しかし、その選択肢は、端からなかった。仮に日本で生産した場合、関税がかかり、しかもこの超円高の時代です。輸出しても利益を出せません。ミラージュは逆輸入した日本でも人気です。今後はインドネシアやフィリピンなどにも展開していきます。
──海外生産が増えると、80年代までのアメリカと同様に「企業は栄えるが、国内の失業率は上昇する」という懸念が膨らむが。
益子 内需が増えない以上、雇用の確保は難しくなる。当社は「国内での生産を維持する」と言ってはいるものの、実は自己矛盾に陥っている。短期的には国内生産を維持するけれど、長期的には海外生産に切り替えていく構造改革は待ったなしです。これからタイを生産拠点に、欧州にも輸出していきます。
単純に海外工場の生産量を増やすという話ではない。これまでは海外勤務は国際部と本社ぐらいでしたが、これからはすべての部門が出ていきます。生産、技術、購買、品質と、全社を挙げて人を出していきます。
──これから、日本人はどうなるべきだと考えるか。
益子 海外で活躍することです。「日本でしか働きません」というのはありえない。そして、“上から目線”になってはいけません。その国の土地を借りて、その国の人たちと一緒に、事業をなしていくのです。進駐軍になるのが一番いけない。戦後の日本でもあった労働争議は、各国で起きるでしょう。それでも人口が増えないなか、日本人が海外へ出て、現地人材とともに働くことが当たり前の時代に、いよいよ入っていくのです。
※すべて雑誌掲載当時
益子 修
1949年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。72年三菱商事入社。主に自動車部門に携わり、執行役員・自動車事業本部長を経て、2004年6月三菱自動車に移り、常務。05年から現職。