『ローマ亡き後の地中海世界』
「パクス・ロマーナ」後の混沌とした地中海世界。さまざまな民族が、キリスト教やイスラム教などの宗教を背景に覇権を争う様を史実に基づいて描く。人気作家、塩野七生が綴る『ローマ人の物語』の続編に位置づけられる歴史巨編。塩野七生著/初版2008年/新潮社刊

大橋氏は昭和電工に入社してからほどなくして、米カイザー・アルミナム、八幡製鉄との合弁プロジェクトに携わる。その後も、昭和電工はポリエチレンでは新日本石油や三菱化学とアライアンスを結び、ポリプロピレンではオランダのモンテルグループと提携を行った。氏は、これらの経験が「客観的に昭和電工の文化を見るいい機会」であり、「それがあったからこそ、社長になってから思い切った企業文化と事業構造の変革を実行できた」と語る。

これらのプロジェクトは、昭和電工に異文化との融合をもたらした。異なる企業文化、あるいは外国企業との共同プロジェクトは昭和電工の新しい礎を築くのに大きな役割を果たしたのだ。一方で昭和電工は1990年代にアメリカでPL法に基づいた訴訟で苦しんだ。これも、氏に異文化を認識、理解することの難しさ、そして重要性を認識させた出来事だったのではないだろうか。

企業のグローバリゼーションが進展する現在においては、自国企業のみならず、他国企業、他国文化との接触は避けられない。そこで摩擦や軋轢が生じれば、企業は打撃を被る。合併や合弁、提携においても、内部の異文化との抗争にエネルギーを使ってしまうと、企業は疲弊してしまう。しかし、異文化とうまく融合できれば効果も大きくなり有益な多くのものを得ることができる。

今の若い人は、身の回りにのみ関心を示し、自分と異なるものには関心がない、という話を聞く。異なるものへの関心の低さは、向上心や問題意識の欠如にも通じるのではないか。「出世をしても給料はさほど上がらないのに責任ばかり負わされる。それなら現状のまま定年を迎え、退職金をもらってゆったり暮らしたほうがいい」と考えるビジネスマンも少なからずいるようだ。

もちろん私も、社長になることを目指して仕事をしてきたわけではない。しかし問題意識だけは常に持っていた。若いときから「自分ならこうするけど、今はそうなっていないな」ということに出くわすたび、メモを書いてストックしていた。そして社長に就任した際、それらを読み直した。なかには、若かりしときの浅はかな考えのメモもある。しかし自分がリーダーになったときには必ずや実現したいという強い信念がそこかしこに刻み込まれていた。

名誉欲で出世したいと思う必要はない。だが出世しなければ実現できないことがあることも事実だ。縁あって入った会社を、少しでも理想に近づけたいという意欲を持って仕事をしてほしい。それこそが「自己実現」と言えるだろう。

読書から学ぶことは数多い。人は歴史や自らと異なるものを知って初めて、自らが向かうべき方向を学ぶことができる。私は、本をただ読み流すだけでなく、感じ取るものがあるページや特定の行に傍線を引いてメモをとるようにしてきた。それが積み重なると自分の糧になるものが増えてくる。問題意識を持ちながら読むことが重要なのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(小澤啓司=構成 小原孝博=撮影)
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