銀行は借金を取り立てられない
SNSなどで人気の財経評論家の蔡慎坤が、この浦発の問題の背景についてこんなコメントをネットメディアに寄せていた。
「これは、中央企業の利潤が急減少しており、その結果、生じた不良債権の損失を最終的に銀行が引き受けなくてはならないからだ。銀行は、どこからも借金を取り立てることができないのだ」
特に、習近平が2020年後半に発動した不動産バブル退治政策「3つのレッドライン」(不動産企業への資金調達制限など)による打撃から、不動産市場がいまだに回復していないことが大きいようだ。
習近平政権は2023年に入って不動産政策の転換を打ち出し、回復を目指しているようだが、ゴールドマンサックスやUBSの予測を見ると、中国の2023年の販売住宅面積予測はそれぞれ8%下落、10%下落となっている。2022年の20%以上の下落と比べれば多少は改善するも、依然として苦境にあることに変わりはない。
習近平の不動産政策の失敗は、消費者の不動産市場への信頼を根こそぎ奪った。銀行は消費者の住宅ローン返済拒否問題と、不動産デベロッパーへのエクスポージャーという、両方のリスクに苦しんでいる。
それでも「エリートはもらいすぎだ」
全人代以降の習近平政権の目玉政策は金融機構改革、すなわち腐敗撲滅を建前に金融機関に対する監督統制を強化することだ。
また、習近平の掲げる共同富裕論に基づき、銀行員の給与が高すぎるという世論も起きている。
浦発銀行問題はこうした中国の経済、社会問題の縮図だと言える。
銀行員だけでなく、証券マン、地方政府公務員、中央企業管理職などこれまで安定職業、高給取りのエリート、花形と呼ばれていた職業は今、新規採用が激減。給与カットが繰り返され、リストラが進んでいる。
高額給与のエリートたちには「給与をもらいすぎだ」という庶民の批判が根強い。これが習近平の「共同富裕」政策を後押ししている状況で、政策の誤りが修正される気配はない。
中国経済が悪化する中、金融エリートをはじめとする「花形職業」は消滅に向かうしかないのである。