鴻海にしてもEMSメーカーとして製品を作り、自社ブランドを持っていない。意図的に自社ブランドを持たないことで、下請けとして信頼を勝ち得ているのだ。鴻海はアップルのiPhoneやiPad以外にも、他のほとんどの有力メーカーのブランドを手掛けているし、コンソールゲームマシンでいえば任天堂のWiiもソニーのPSPもマイクロソフトのXboxも全部、鴻海が作っている。
そして彼らの競争力を裏付けているのが高い技術力だ。台湾メーカーというと日本から機械や基幹部品、基幹材料を買ってきて、中国で安い労働力を使って製造・組み立てをするチャイワン(台湾+中国)モデルが強さの源泉とよくいわれる。しかし技術開発も相当熱心にやっていて、たとえば半導体の線密度に関して、TSMCは20ナノミクロンという日本のメーカーには不可能な領域まで到達している。
鴻海などは日本から学んだ技術を中国の会社に教えて日本よりもはるかに安いコストで製品化する、「技術のトランスファー」が常套手段だ。たとえば日本がリチウムイオン電池を開発した当初は日本の電池を製品に実装していたが、そのうちに中国の会社に日本製よりもずっと薄くて安いリチウムイオン電池を開発させる。
今やiPadの中に入っているリチウムイオン電池は中国製。研磨などの精密機械加工技術は日本の小林研業などの得意技だったが、それも今や鴻海を通じて中国で安くできるようになっているのだ。実際、鴻海の精密加工技術は日本のエレクトロニクス企業には見られないくらい高度なもので、アップルなどの信頼のもととなっている。
恐らく鴻海は日本企業よりも日本の購買事情をよく知っているだろう。彼らは「もっといいものはないか」と常にアンテナを張っていて、いいものがあれば買って教わり、間髪入れずに中国の会社にそれを展開して、安い値段で作れるようにする。発注のボリュームも半端ではないから、中国企業も一気に育つ。そうやって作り上げてきた鴻海の購買・生産チェーンは今や世界最強といえる。
あらゆるものが汎用化するデジタル時代においては、誰かが開発したものを少しでも安く作ったところが勝つ。
日本の技術や機械を素直に取り入れてブラッシュアップしてきた台湾のハイテクと中国の巨大なマンパワーが結びついたチャイワン企業の強みが生きるのだ。