岸田首相は来秋の自民党総裁選に勝てるのか

岸田首相はどのようにして総裁再選を果たすつもりなのか。今回の人事は政権基盤を固めるどころか、内閣支持率は回復しなかった。主流派の麻生・茂木両氏にも不信感が募り、非主流派の菅・二階両氏の不満は高まった。最大派閥・安倍派の中堅・若手には5人衆ばかりに配慮した人事に不満が渦巻く。いつ岸田降ろしの狼煙が上がっても不思議ではない。政権基盤は人事で弱体化したといえるだろう。

それにしては、首相周辺から危機感は伝わってこない。それはなぜか。内閣支持率が低迷し、自民党内に不満が募っても、米国のバイデン政権の絶大な支持を得ている限り、政権は安泰であると確信しているからだ。

岸田首相はロシアのウクライナ侵攻以降、バイデン政権に追従し、ウクライナ支援に全力をあげた。米国から敵基地攻撃能力を持つ巡航ミサイル・トマホークなどを大量購入するため、防衛力の抜本的強化と防衛費の大幅増額を打ち出し、不人気の防衛増税も表明した。

中国との覇権争いを続ける米国の要請に応じて韓国との関係を改善し、日米韓による中国包囲網も進めている。国内世論や党内世論よりも米国の支持をつなぎ留めることこそ、最強の政権延命策と見定めているのだ。

写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです

「首相の最側近」木原誠二官房副長官を退任させ、守る

留任ドミノで目新しさを欠く今回の人事では、岸田首相が米国の意向を最優先していることをうかがわせる「人事異動」が二つあった。私はこの二つの人事こそ注目すべきであると考えている。

ひとつは、疑惑渦中の木原誠二官房副長官を退任させる代わりに、自民党の幹事長代理と政調会長特別補佐を兼務させるという異例の人事である。

木原氏は財務省出身で当選5回、宏池会(岸田派)の将来を担うホープだ。首相最側近として官房副長官に起用され、外交・内政全般を仕切り、自公与党との調整役も一手に担ってきた。その木原氏を襲ったのが「木原氏の妻が元夫の怪死事件の重要参考人として警視庁に事情聴取されながら捜査が不自然な形で打ち切られた」という週刊文春のキャンペーン報道である。世論の批判は過熱し、木原氏は取材を避けて雲隠れし、官房副長官として機能不全に陥っていた。

岸田首相はそれでも木原氏を留任させる意向だった。だが、木原氏自身は官房副長官にとどまれば世論の批判が収まらず、次の衆院選で落選の危機が高まると判断し、記者会見に立つ必要のない党要職への人事異動を希望した。その結果、幹事長代理と政調会長特別補佐を兼務する異例の処遇をする方向で調整が進んでいる。