岸田首相は結局、麻生氏に土壇場で「幹事長交代」を猛反対され渋々従った。麻生氏は「茂木氏を来年秋の総裁選に出馬させない。岸田首相を支持させる」と説得し、茂木氏も「首相を支える」と約束したとみられるが、この手の口約束はいとも簡単に破られるのは永田町の常識だ。

岸田首相が麻生氏に押し切られて茂木幹事長の交代を断念したことで、内閣改造・党役員人事の構想は根底から崩れた。

想定外の「留任ドミノ」

当初は茂木氏を財務相に横滑りさせ、不人気な防衛増税を主導させて世論の批判の矢面に立たせるつもりだった。河野氏にマイナカード問題を担わせて失速させたとの同じ戦法だ。だが、茂木氏留任が決まったことで鈴木俊一財務相(麻生派)も留任することになった。

岸田首相は安倍派5人衆で森氏がイチオシの萩生田氏を官房長官に登用し、森山氏の幹事長起用とあわせて新しい主流派をつくる道も探ったが、茂木幹事長の留任で主流派組み替えは実現しなかった。それならば政権の骨格を維持し、安倍派も5人衆の均衡を保って主導権争いが続く現状を維持させたほうが無難と判断し、5人衆を全員留任させたのである。

自民党役員人事は茂木幹事長と萩生田政調会長が留任し、行き場のなくなった森山氏を選対委員長から総務会長に横滑りさせ、小渕氏は森山氏の後任に充てることで決着した。党四役に茂木派から二人(茂木氏と小渕氏)を起用する異例の人事は、茂木氏に対する精一杯の牽制だろう。

内閣改造人事も鈴木財務相、西村経産相、松野官房長官、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相に加え、公明党の斉藤鉄夫国土交通相の6閣僚が留任し、代わり映えしない布陣となった。想定外の茂木幹事長留任が「留任ドミノ」を引き起こしたのである。

「女性登用」のハリボテ感

刷新感を欠く人事が支持率回復につながるはずがない。岸田首相はあわてて過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を起用して「女性登用」を演出したが、副大臣26人・政務官28人の計54人には女性がひとりも起用されず、「女性登用」はハリボテであることが露見した。

内閣改造直後の世論調査で内閣支持率はほぼ横ばいで、政権浮揚効果は見られなかった。しかも当選3回で副大臣未経験ながら女性登用の目玉として起用した加藤鮎子こども政策担当相(谷垣グループ)に早くも政治資金疑惑が浮上し、旧統一教会の解散命令請求を担当する盛山正仁文部科学相(岸田派)は旧統一教会との過去の関係で批判が再燃している。10月召集予定の臨時国会で、昨年秋の閣僚辞任ドミノが再来することを予測する声も出始めた。

これでは岸田首相が年内に衆院解散・総選挙を断行して来年秋の総裁再選の流れをつくることは難しいとの見方が自民党内では強まっている。