宣伝工作の指導と解釈にずれ?
だが侵攻開始から半年がたった頃には、国営テレビでも「戦争」という言葉を耳にするようになっていた。口火を切ったのは、ロシア政府寄りで、「プーチンの声」とあだ名される人気司会者のウラジーミル・ソロビヨフだ。その後、複数の司会者やゲストたち、それにセルゲイ・ラブロフ外相やプーチン自身まで、この言葉を使うようになった。
「あえて統一しないほうがいいという考えでそうしたケースもあるだろうが、組織的な欠陥という面もある」と、ランド研究所のポールは言う。「紙媒体とテレビメディアの間にはたぶん、統制のメカニズムに違いがあるのだろう。そして異なる指揮が広がったり、組織の中の中間管理職や指導者や官僚の間で解釈違いが起きたのかもしれない」
侵攻開始直後に政府の弾圧の犠牲になったのが独立系テレビ局のドーシチだ。ウクライナ報道をめぐり、「戦争=フェイクニュース法」によって当局から放送を禁じられたのだ。昨年3月上旬の最後の番組では、スタジオからスタッフが「戦争にノー」と言いながら去って行く様子が生中継で放送された。
「戦争の始まりが、ロシアにおけるドーシチの終わりの始まりであることは、明らかだった」と、ドーシチのジャドコは言う。ドーシチは現在、オランダを拠点に運営されている。
ジャドコによれば、ロシア政府によるメッセージ発信の失敗は、戦争自体の性質と目的をめぐる根本的な「混乱」に端を発している。「こうしたずれは最初からあったし、その理由は明らかだ。ロシアがなぜ(戦争を)始めたのか誰も理解していないからだ」とジャドコは言う。「政府ですら分かっていないし、ロシア政府の宣伝工作(部門)はさまざまな事態にどのように反応すべきか理解するのに悩み、状況の変化に付いていこうと必死だ」
「ウクライナを『非武装化』するという話もそうだ。ウクライナの軍事増強がこれまでになく進んでいると(プーチンは)言うけれど、それはこの『作戦』がうまくいっていないということだ」とジャドコは言う。
ロシアメディアの報道によれば、今年6月に連邦議会のコンスタンティン・ザトゥリン議員も、政府はウクライナ侵攻における目標を達成できていないという趣旨の発言をしたという。昨年12月には、政府寄りのテレビ司会者オリガ・スカベエワが、ウクライナにおける戦争は「あらゆる面で」ロシアを「疲弊させ」ており、多くのロシア人は戦争を終わらせたいと思っているとまで国営テレビで発言。だがザトゥリンもスカベエワも起訴されたりはしていない。