登山で見かける「合目」はどういう意味か

多くの山では、麓の登山口から山頂までの登山道が10分割され、その境界となる場所が「合目」という表現で呼ばれている。麓から登り始めて標高が高くなるにつれ、一合目、二合目と「合目」の数が増え、十合目が山頂だ。

しかし、「合」とは面積や容積の単位であって、決して距離の単位ではない。それなのに、なぜ登山道を「合目」という表現で区分するのだろうか。

次のような説がある。ますに入れた米を逆さに空けたときの形が富士山に似ているので、枡目を用いて一里を一合とした説、米粒をパラパラ落としながら登り、一合なくなったところを「一合目」とした説、夜道の提灯ちょうちんに使う油が一合なくなったところを「一合目」とした説、仏教用語で時間の単位を意味する「こう」という言葉があるが、登山の苦しさを人生の苦難に見立て、劫の数を「合目」で表したという説などである。

そんな中、『世界山岳百科事典』に記載されている説が非常に興味深い。一合(山麓)から始まって十合(山頂)で終わる合目は、仏教の教義でいう十界にあたり、一合目(地獄道)、二合目(餓鬼道)、三合目(畜生道)、四合目(修羅道)、五合目(修験道)までを地界、これより上の六合目(天道)、七合目(声聞しょうもん道)、八合目(縁覚道)、九合目(菩薩道)、頂上(妙覚)を天界とし、十界を山にあらわして苦修練行をしているという。

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御殿場ルートの五合目がハードな理由

「合目」という言葉の由来も謎だが、区分の基準もはっきりしない。距離なのか、高度なのか、それとも所要時間で分割したのだろうか? しかも、同じ間隔で分割されていない。なぜだろうか?

出典=『気になる日本地理』(KADOKAWA)

図表1は富士山の登山道のうち、北側からの吉田ルート、東側からの御殿場ルート、南側からの富士宮ルートを表示している。同じ合目でもルートによって標高が異なっている。

宇田川勝司『気になる日本地理』(KADOKAWA)

たとえば、吉田ルートの五合目と富士宮ルートの五合目の標高はほぼ同じだが、御殿場ルートの新五合目は、他の2ルートより約900mも低い。しかも五合目でありながら吉田ルートの一合目(1515m)よりも低い1440mの標高しかない。実をいうと、この新五合目は、以前は二合目だった場所なのだ。これには次のような事情がある。

1960~70年代、吉田ルートや富士宮ルートでは2300m付近の高さまで自動車道が開通し、五合目が富士登山のスタート地点となった。これに対抗し、御殿場側でも自動車道の終点だった二合目を新五合目に格上げしたのである。ちょっと強引な気がする。ただ、本来は二合目だった場所から登るので、御殿場側からの登山は距離も時間も一番ハードなコースである。