権利だけでなく責任も男女平等
女性を対象とする徴兵については、他の北欧諸国で実施する例がみられる。2015年にはノルウェーで、2018年にはスウェーデンで、女性の徴兵が開始された。他にはイスラエルでも女性を徴兵している。
マリン首相は、男女参加の機会均等を考慮すべきだと述べて、徴兵対象の女性への拡大を支持した。オランダの女性の国防相も、「女性と男性は平等の権利を有しているだけではなく、平等の責任も負っている」と述べた。これらは非常に重要な指摘である。
権利だけでなく、義務も等しく分かち合うことこそが、真の平等をもたらすだろう。なお、2022年10月のフィンランドでの世論調査によれば、徴兵対象の女性への拡大について、反対が44%だが、賛成も35%に達している。
ちなみに、フィンランド憲法第127条第2項は、「信念に基づき軍事的な国防への参加の免除を受ける権利については、法律で定める」との条文を設けて、良心的兵役拒否について規定している。
人口550万人の国に90万人の予備役がいる
加えてフィンランドは、大規模な予備役を擁していることも、軍事面での大きな特徴といえる。人口わずか約550万人のフィンランドが、戦時には28万人の兵力を30日以内に動員することが可能である。そして90万人という大規模な予備役を誇っている。
これに対して、人口が約1億2000万人の日本において、各国の予備役に相当する予備自衛官は、わずか5万人に過ぎない。
フィンランドの総人口に予備役が占める割合は約16%であるのに対して、日本の総人口に予備自衛官が占める割合は、わずかに0.04%である。
400対1という予備役の人口比から読み取れるのは、自ら国を守ろうというフィンランド人の非常に高い国防意識である。日本もフィンランドを見習って、国民一人ひとりが国防意識を高めつつ、予備自衛官制度の充実にも取り組む必要があるだろう。
こうした人口に比して巨大な規模の予備役は、歴史をひも解いてみると、フィンランドが第二次世界大戦の敗戦国となったことと大きく関係している。1947年のパリ講和条約によって、フィンランドには軍備制限が課されたが、大規模な予備役はその副産物だといえる。
フィンランド軍は1948年に、パーシキヴィ大統領に対して、条約が動員を禁じていないことを指摘し、動員システムの基礎を予備役に置くことを進言した。これによって、第二次世界大戦後のフィンランド軍の姿が、小さな常備軍、大きな動員軍という柱によって構成されることが固まった。
ウクライナ侵略において、プーチン大統領は2022年9月に、予備役を対象とした部分動員令を発令した。翌10月には、約30万人を招集したとしたが、国外脱出が急増するなど、ロシアの動員体制には綻びが見られた。それとの比較では、高い国防意識に支えられたフィンランドの予備役は、同国にとっての大きな強みであるといえよう。