当初は「個人の壁」があったが……

すぐに会社を買うための活動を始めた彼らでしたが、2018年当時、最大の悩みは「『会社を買いたい』と言っても、個人だと相手にされない」「事業引継ぎ支援センター(現「事業承継・引継ぎ支援センター」)に行ったら、『個人だから』と門前払いされた」という問題でした。いうなれば「個人の壁」です。

三戸政和『いますぐサラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)

従来、M&Aは事業会社やファンドだけが行うもので、個人がプレーヤーとして参入することはありませんでした。さらに、従来のM&Aで扱われるのは中堅以上の会社で、中小零細企業が売り手として扱われることもありませんでした。

M&Aを手掛ける仲介企業やファイナンシャルアドバイザー(FA)は、M&Aを成立させて初めて仲介料が発生する手数料商売であり、その頃の最低報酬は2000万円ほどでした。

それだけの仲介手数料が発生する案件となると、最低でも売り上げ規模で1億円くらいの会社が対象になってしまいます。

それゆえ中小零細企業を扱うことは想定されていなかったわけです。

「個人に会社を買ってもらう」時代へ

ところが、手前味噌てまえみそではありますが、私の本が世に出て、話題になった後くらいから「気配」が変わりました。個人は相手にされず、中小零細企業も売買対象となることのなかったM&A市場が、徐々に変化し始めたのです。

サロンを始めてから1年余り過ぎた頃からでしょうか、サロンメンバーからいつしか、「個人だから相手にされない」という愚痴ぐちが聞かれなくなりました。

とくに、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)の改正施行(2021年)をはじめ、国が中小企業の後継者不足問題の解消を目指す政策を推し進めた時期にさしかかると、世の中の空気は一変しました。公的セクターが後継者不在の中小零細企業の買い手として「個人」に目をつけ、むしろ積極的に取り込もうとするようになったと実感し、手ごたえを感じたことをよく覚えています。

そして2023年現在では、個人が中小零細企業を買うスモールM&Aの障壁となっていた高額な仲介料や専門家に払う費用についても、最大400万円まで補助されるようになっています。「個人が会社を買う」ことへの理解が進み、後押しされるようになっているのです。

「買い手の条件」は整った

1冊目の書籍の刊行から5年、いまでは非同族の人への事業承継の割合が増え、前述の通り、中小企業の後継者問題が少しずつではありますが、解消する方向に進んでいます。

大きな理由は、「買い手の条件」が整ったことにあります。

①中小企業の社長個人の経営者保証が強制されなくなっていること
②事業承継における税制優遇及び融資の優遇制度ができていること
③売り企業の情報量が格段に増え、会社を見つけやすくなっていること
④事業承継にかかる仲介料などのM&A費用にも補助金制度ができていること

これらは私の主観でもなんでもなく、単純な事実です。「個人が会社を買うための社会環境」が整ったのです。