日本人の10人に1人が多汗症

汗の悩みといえば、多汗症で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。多汗症の正式名称を「原発性局所多汗症」といい、手のひらや足の裏、脇などの限局した部位から過剰な発汗を認める疾患です。一説には、日本人の10人に1人が多汗症といわれており、その内の約60%が「原発性腋窩えきか多汗症」とされています。

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腋窩とは脇のことで、「原発性腋窩多汗症」は温熱や精神的な負荷などにより脇に大量の発汗がおこり、日常生活に支障をきたす状態と定義されます。多汗症の原因は不明な点も多く、健常者と比較しても汗腺の数や大きさなどに異なる点が見当たらないことから、汗腺がなんらかの原因により過剰になっていると考えられています。

腋窩の汗は、気温の上昇や運動などで生じる「温熱性発汗」が主な原因です。腋窩は他の部位と比べ発汗開始の温度がもっとも低く、全身では発汗が生じない低体温でも発汗します。それに加え腋窩は腕で覆われているため汗が蒸発しにくく、通常の発汗量でも発汗過多に感じられやすい部位といえます。また、腋窩の近くには太い血管が存在するため、体温調節のために発汗しやすい部位でもあります。

2020年の国内調査では、6万969人の原発性局所多汗症の有病率10.0%のうち、部位別では腋窩が5.9%で最も多く、次いで頭部・顔面が3.6%、手掌が2.9%、足底が2.3%でした。しかし、医療機関を受診した方の割合は4.6%と低く、受診継続率はわずか0.7%であることが判明しました(Fujimoto T, Inose Y, Nakamura H, et al:Questionnaire-based epidemiological survey of primary focal hyperhidrosis and survey on current medical management of primary axillary hyperhidrosis in Japan, Arch Dermatol Res, 2022. doi:10.1007/s00403-022-02365-9. Online ahead of print.)。

多汗症は思春期から発症するケースが多い

多汗症の受診率の低さは、患者が若年層に多いことも関係しています。多汗症は思春期頃から発症するケースが多く、調査によると、中高生で「かなり悩んでいる/悩んでいる」は90.7%であるのに対し、母親が子に対し「かなり悩んでいると思う/悩んでいると思う」は65.6%という結果で、意識のズレがうかがえます。若年患者においては、疾患に対する家族の理解を得られにくいのが現状です(藤本智子、原田栄、馬場直子ほか「中高生の腋窩多汗症に対する認識調査:中高生患者と母親を対象としたインターネットアンケート調査」日臨皮会誌:40(2),170-180,2023)。

しかし、多汗症の放置はQOLの低下や、経済的損失、精神状態にも悪影響を及ぼします。

多汗症患者の多くはセルフケアで対処しており、経済的負担になっています。2018年の調査によると、脇汗パッドや制汗剤、サプリメントなどの衛生用品の年間総費用は1人当たり9325円との調査結果が出ています。

腋窩多汗症患者の学校や仕事における影響も大きく、全般労働障害率は30.52%と言われます。患者1人当たりの1カ月における損失は12万593円で、日本全体では1カ月あたり3120億円と推測され、腋窩多汗症がもたらす経済的損失も明らかになりました。(Murota H, Fujimoto T, Ohshima Y et al:Cost-of-illness study for axillary hyperhidrosis in Japan, J Dermatol, 2021;48:1482-1490.)