ただし見方を変えれば、高齢になっても働きたいというデータは、働かなければ暮らせないという事実の裏返しでもある。年金だけでは生活を維持できないという、過酷な現実がそこにはある。

前掲のガス会社男性の妻は、働きに出る夫への謝意を示しつつ、ニューヨーク・タイムズ紙に対して胸中の迷いを打ち明けている。「働きながら死ぬなんて、とても悲しいことです。そんなふうに最期まで働いてはいけないんです」

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だが、働かなければ収入は途絶える。財務省の財政制度等審議会は、68歳への定年引き上げにあわせ、年金の受給開始年齢も同年齢からとする案を検討している。

現在は65歳から受給可能だが、引き上げられた場合、退職から受給開始までに空白の3年間が生じる。手持ちの預金を切り崩しながら耐えられる人ばかりではないだろう。

もっとも海外の報道は、悲壮な日本の未来ばかりを語っているわけではない。ニューヨーク・タイムズ紙はガス管会社の男性について、働きがいが伴っているとも報じている。

男性は定年後に、同じ会社に再雇用された。現在は工事の事前説明など、人と話す仕事を多くこなしている。新しい人と出会うのが好きだというこの男性は、今の仕事に喜びを感じているという。毎日ゴルフをしているよりもずっといい、と語っている。

高齢者が働き手として求められている一面も

仕事を続けたおかげで、夫婦仲も良好だ。この男性の妻は、「(働くということは)私たちの両方が『自分時間』を持てるということです」とニューヨーク・タイムズ紙に語り、適度な距離感が円満に一役買っていると明かした。

また、高齢になっても従来とまったく同じ労働をこなすことを求められるわけではない。

同じ会社に継続雇用される場合でも、異なる会社に再就職する場合でも、肉体的な負担に配慮した業務が割り当てられることがある。

ガス管会社に再雇用された前掲の69歳男性は、以前のような施工業務を離れ、いまは同社による工事の事前説明を担当している。現場付近の住宅を訪問してチラシを配り、住民の理解を得るのが仕事だ。雇用形態は契約社員となり、実入りも減ったが、以前のように肉体労働をこなす必要はなくなった。

日本のある派遣会社の社長はニューヨーク・タイムズ紙に対し、労働市場において高齢者への需要が高い分野が存在すると説明している。例えば、電気やガスなどの工事会社が顧客宅で修理作業を行っているあいだ、社用車の運転席で待機している人材が求められているのだという。

運転席に人がいることで、必要なときにいつでも車を動かせる状態となり、駐車違反を避けることができるのだと同社長は説明している。