時代に合わない「日の丸株式会社」のビジネスモデル

ここで注意しなければならないのは、日本企業のビジネスモデル自体が今の社会の変化に合わなくなってきているということです。

たとえば、日本が苦戦しているソフトウェア業界で急成長を遂げた企業を見てみましょう。「Ghost」というツールを提供しているアメリカ企業があります。

2013年にクラウドファンディングを成功させて開発されたこのツールは、一般の人がブログやニュースレターをつくるサポートをしてくれます。

アメリカをはじめとした英語圏ではブロガーやジャーナリストに特に人気です。

すでに、同じような機能がある「Substack」などのツールは存在していましたが、手数料が高いうえに、機能をすべて使うには追加料金がかかったりして、ユーザーから不評を買っていました。そこを改善したいと考えたのが「Ghost」でした。

「Ghost」は会員やユーザーの数に応じた月額の使用料金を払えば、あとは追加料金を払うことなしに自分で自由にサイトを構築できるうえ、他のツールでは提供されていない機能をいろいろ使うことができます。

月に数万円から数百万円を稼ぐ人気ライターやジャーナリストにとっては経費が削減でき利益がアップするので、「Ghost」へ乗り換える人も少なくありませんでした。

そんなわけで大人気になった「Ghost」にはもう1つ大きな特徴があります。このソフトウェアはプログラムの文字列、つまり「ソースコード」が、無料で一般公開されているのです。ソースコードの公開は「Github」というサイト上で行われています。

「Ghost」側は基本的なソフトウェアを提供し、ユーザーは自身が使いやすいように自由にソフトウェアを拡張したり統合したりすることが可能です。ソースコードには誰もがアクセスでき、しかも改善したものを再配布するのも自由なのです。

そのため、世界中の有志のプログラマにより、継続的に改良されていくのです。

世界の潮流「オープンな働き方」と年功序列の日本

「Ghost」の提供が始まった当初、アメリカではブログやコンテンツ出版ツールの間で戦争が起きていました。

自社の市場シェアを拡大するために、「Medium」などの有名サイトは著名ライターや芸能人に報酬を払って執筆を依頼していたのです。有名人の知名度に頼った市場拡大はツール自体の機能の発展を無視し、とにかくPRばかりを重視するようになります。

一方、「Ghost」はオープンソースで開発してもらうというモデルで、ツール自体の機能の向上に注力したわけです。サービスそのもののクオリティを高めるという基本を追求したからこそ、ライバルに勝つことができたのです。

谷本真由美『激安ニッポン』(マガジンハウス)

しかも、「Ghost」は厳密に言うと「会社」ではありません。なんと、非営利団体なのです。なので、株主は存在しないし、上場もしていません。社長もいません。組織を売買することもできません。しかしこれは、オープンソース業界ではめずらしくない形態です。

そして、この非営利団体で働く人々はほとんどが100%リモートワークで、働く場所も服装もすべて自由です。また、情報もすべて透明化しています。

ユーザーから支払われる購読料金からツールが動いている時間、アクティブユーザーの数、ダウンロードされた数……などがリアルタイムで公開されています。

「Ghost」は年間7億円ものお金を稼ぎ出すようになりましたが、稼いだお金は基本的なソフトウェアをつくるエンジニアの人件費やツールの向上に再投資されます。

「Ghost」のような自由でオープンな働き方というのは日本の伝統的な組織とは全く正反対です。また、付加価値の高い知識やスキルを持った人々は、非常に短期間でさまざまな組織やプロジェクトを渡り歩きます。そうやって、多くの人と交わるなかで新しいアイディアが生まれます。

実は欧州の会社も、高い付加価値を生み出す組織ほど、このようなオープンな働き方がどんどん主流になってきているのです。

こういった組織に、いまだに年功序列で働いている日本企業が太刀打ちできるはずはありません。

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