想定最大規模の水害ではマンションの3〜4階まで浸水する

江戸川区は荒川、江戸川、東京湾に三方を囲まれていて、区のおよそ7割が満潮時の水面よりも低い「海抜ゼロメートル地帯」です。国や都の想定最大規模の台風や大雨が発生すれば、区のほとんどは水没し、最も深いところではマンションの3〜4階に相当する10メートル以上の浸水が起こるだろうと予測されています。

浸水はなかなか引かず、最長で2週間以上続くとされており、もし区内にとどまれば長期間にわたってライフラインのない生活を強いられることになります。区の総人口は約70万人で、うち50万人弱がゼロメートル地帯に住んでいます。万が一、この50万人弱がひとりも避難できなかったら、その被害規模は想像を絶するものになるでしょう。

こうしたリスクを抱えているのは江戸川区だけではなく、墨田区、江東区、足立区、葛飾区も同様です。この江東5区ではほとんどの地域が水没し、総人口の9割以上に当たる約250万人が浸水被害を受けると予想されています。

江戸川区ハザードマップ

想定最大規模の水害が起こるのは千年に一度程度だが明日かもしれない

ただし、これはあくまで最悪の事態をシミュレーションしたときの話です。これほどの巨大台風や大雨が発生するのは千年に一度程度と言われており、実際には1949年のキティ台風以降、堤防の外側を流れる河川から江戸川区内に水が入ってきたことはありません。

江戸川区周辺では、徳川家康の時代からおよそ400年間にわたって治水工事が行われてきました。隅田川の水害から町を守るためにつくられた荒川も、工事着手からすでに100年以上が経ちます。先人たちの努力と、その後の下水道整備や排水機能強化などによって、今の江戸川区は昔に比べれば水害に見舞われにくい都市になっています。

しかし、千年に一度の事態は今年起こるかもしれないし、明日起こるかもしれない。先人たちがそうしてきたように、我々もずっと、それこそ何百年も継続して水害対策に取り組んでいかなければいけないと思っています。

江戸川区役所の職員は皆、入区してすぐ水害リスクに関する研修を受けます。もちろん私もそうでした。ただ、知識としては知っていたものの、初めてこの問題に真正面からぶつかることになったのは、区長に就任して間もないころのことでした。

2019年10月、大型の台風19号が上陸し、私は江戸川区90年の歴史の中で初の避難勧告を出しました。あのときは、とにかく区民の命と財産を守るのが最優先だという思いでいっぱいで、結果的に、避難した区民は23区最多の約3万5000人にのぼりました。あれは正解だったのかと今も自問することはありますが、当時の状況で命を守るために自分に何ができたかと考えると、やはりあの判断をせざるを得なかったように思います。