父親の産後うつは「共有できない」

1人目の時は妻の産後うつ以外の要因はなかったが、2人目の時は「家を買う」「異動」というストレスがかかりやすいイベントを2つも重ねてしまっている。しかしそれでも「自分が頑張らねばならない」と抱え込み、自分の体調不良を自覚してもなお3カ月頑張り、最終的に妻には伝えないで受診をしている。病んでもなお、「父親は強くあらねばならない、弱みを見せてはならない」という「有害な男らしさ」を抱え続けていた。

実はこの事例の元となった方は、心理学部の出身であり、メンタルヘルス不調についてある程度の知識を持ち合わせていた。自身がうつとなったことを契機に、男性の育児に関するうつについて調べたが、当時はあまりに情報が少ないことを感じていた。

そして何より、その後も続いたのが「共有できない辛さ」であったという。父親の知り合いや会社の同僚には、「育児が原因でうつになりました」とはなかなか言えなかった。唯一言えたのは自らも産後うつに悩まされた妻であり、通院先の医師も育児に関するうつについてはあまり相談できなかった。自身にも「弱みを見せたくない」という感情はあったが、それを乗り越えて相談しようとしても、「共有できる場所がない」のである。

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父親も母親も「育児で孤立」すれば「産後うつ」になる

本書で紹介している事例すべてに共通しているのは、まさに「孤立」である。一人での夜泣き対応やワンオペ育児、そして相談できない環境。父親は自ら相談することも難しいが、相談する場もないのである。第2章で父親の産後うつのリスク要因に、「孤立感」「周囲のサポートが乏しい」ことがあると表で示したが、この2点は共通して見られた。

別にこれは父親に限った話ではない。「ワンオペ育児」は、母親が育児で父親の支援を受けられないことによって孤立していることを指し、まさに産後うつの原因になっている。根本的にはそれが父親であるか、母親であるかは関係なく、「育児で孤立」すれば「産後うつのリスクは高い」のである。だからこそ、「育児をする人であれば、すべて支援されるべき」なのだ。

しかし本書では、敢えて「父親の」を強調して書いている。それは現在の支援の枠組みの中に父親がいないことを問題視しており、今後父親の育児参加が増えれば、必ず「母親の二の舞」を踏むと考えているからだ。