産後うつになるのは母親だけではない。産業医で産婦人科医の平野翔大さんは「育児で孤立すれば、父親であるか母親であるかは関係なく、産後うつになるリスクは高い。育児をする人は、すべて支援されるべきだ」という――。

本稿は、平野翔大『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

家の床に女の赤ちゃんと一緒に座っている悲しい父親。
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1人目の子どもが産まれて、妻が産後うつになった

これから紹介する「父親の産後うつ」の事例は、「有害な男らしさ=トキシック・マスキュニティ」が目立った一例だ。母親の産後うつには多くない、まさに父親に特徴的なパターンであり、父親の育休が増えるにつれて、今後多くなってくるであろうと思われる問題だ。

この方は、「まさか自分が、育児と仕事を両立できなくなるとは思っていなかった」と語っている。

この父親がうつになったのは、2人目の子どもが産まれた後だった。1人目の子どもが産まれた時、赤ちゃんにトラブルがあり、新生児集中治療室(NICU)に入室することとなった。子どものNICU入室は、多くの母親に「自分のせいではないか」「その後の発達に影響したりしないだろうか」とストレスを与えることが知られている。この父親の妻も退院後、思い詰めていたという。これに夜泣きが加わり、産後数カ月の時に妻が倒れてしまった。まさに父親の産後うつのリスクの1つである、「妻の産後うつ」である。

その時、父親はサラリーマンとして朝から夜まで働いていたが、実両親・義両親の家が近かったこともあり、双方の協力を得て仕事は続けつつ、土日は可能な限り子どもの面倒を見て妻を休ませた。その後妻は体調を回復し、2人目を授かる。

「2人の父親になったし、頑張らないと」

2人目の妊娠中に、「今度子どもが大きくなれば、今のマンションでは手狭になる」と考え、家を購入することを決意した。同時に自らの希望ではなかったが、部署異動の話もあり、今後のキャリアも考え引き受けることとした。もちろん、1人目の反省もあり、きちんと子育てに関わるということは決めていた。

出産後、家の手続きや転居、そして異動先での激務と育児を両立。大変さは感じていたが、「2人の父親になったし、頑張らないと」と自分を励まして働き続けた。しかし2人目が1歳を迎える前くらいから、徐々に眠れない日が増えていった。頭痛や原因不明の熱も出てきたが、それでも3カ月頑張った。しかし限界を感じたが、妻には迷惑をかけられないと、内緒で心療内科を受診したところ、うつと診断された。

何を優先するのか悩んだが、仕事を犠牲にすることを決意。妻と上司に診断結果を伝え、仕事内容や分量を大きく変えてもらい、休職はせずになんとか乗り切った。今では3人目にも恵まれ、3人目はこの反省も活かして仕事をセーブしつつ、無事に育児を続けている。

この父親は、自らが倒れたエピソードを振り返り、「『勝手な使命感』に駆られていた」と分析する。妻の産後うつが父親の産後うつのリスクであることは本書の第2章で述べたが、これに「有害な男らしさ」が重なった事例と言えよう。第1子の時に、祖父母の力は借りつつも、妻のケアと自らの仕事を両立できたというのも、ある意味根拠のない自信を持つ原因になってしまった。