対策の主軸にすべきは、既婚者ではない

とすると、現在の「異次元少子化対策」で主軸となっている既婚カップルの出産奨励は(もちろん重要ではありますが)、力不足と言わざるを得ないでしょう。

再度書きます。

今でも、既婚女性は、1974年とそんなに変わらない程度に、子どもを産んでいます。その彼女らに、もっと子どもを産めというのは、即ち、子沢山だった1974年の夫婦よりも、出産指向をさらに高めるということに他なりません。確かに、晩婚化が進む現在、30代後半以降の女性の出産数を「過去より増やす」施策は大切でしょうが、それは対策としては、「従」にしかなりえないでしょう。

写真=時事通信フォト
記者団の取材に応じる岸田文雄首相=2023年6月15日午後、首相官邸

対策の主軸はあくまで「結婚促進・早期化」。そして、婚外子・養子縁組・代理母・精子/卵子提供などを通した「未婚・同性婚の父・母」増加策でしょう。ただ、後者にはいまだ、日本社会は後ろ向きであり、議論も進んでいない状況です。

ということで現状の少子化対策としては、結婚促進・早婚化が早晩また大きなテーマとなりそうです。それは、2010年前後の婚活・妊活ブームが思い起こされ(本連載でも言及)、結果、結婚できない女性が肩身の狭い思いをすることになりそうで、胸が痛むところです。

早婚を奨励する前に、まず、なぜ、晩婚化・未婚化が進んだのか、そこに立ち返っておくことが重要でしょう。

生涯未婚率上昇は、出生率の低下から遅れて生じる

本題に入る前に、晩婚化・未婚化と出生数の影響を今一度、振り返っておきます。

最初に、生涯未婚率ですが、これは50歳時点での未婚率を示すと既に書きました。

女性の生涯未婚率は1990年代まで、長らく4~5%程度で低位安定していました。当時は、男性の生涯未婚率が女性よりも低かったことから、女性は離婚後に再婚する人が多く、そのため、一人の女性に対し、複数の男性が結婚機会を有していた、と考えられます。それが昨今では男性の生涯未婚率が女性より圧倒的に高まっています。

過去とは逆に、再婚・再再婚する男性が多く、その結果、複数の女性に結婚機会が生まれていることが見て取れます(勝ち組男性は複数回結婚できるが、その分、結婚にあぶれる男性が増えるという図式)。

話が横道にそれましたが、低位安定していた女性の生涯未婚率が、2000年ごろから急上昇していくことになり、現在は20%近くまでになっています。

前述した通り、この数字は50歳時点での未婚率なので、彼女らが出産適齢期だった30代の頃、つまり、生涯未婚率よりも15年ほど時を先んじて、出生率は下がることになります。ということで生涯未婚率と特殊出生率のグラフを並べてみると(図表3)、見事に15年のタイムラグが見て取れ、1985年以降の出生率低下が、2000年以降の生涯未婚率の上昇と連関しているのがよくわかるでしょう。