注目すべきもう一つの場所、グリーンランド

中国の北極進出においてもう一つ注目すべき場所が、デンマーク領グリーンランドです。日本の約6倍の面積を有するグリーンランドですが、人口は約5万7000人。その9割は先住民系で独立志向が強く、住民投票を経て、2009年には外交と安全保障を除く広範な自治権を獲得することができました。

しかしながら、独立への最大の課題は経済問題です。主要な産業はデンマーク政府の補助金に頼るという、経済的な脆弱ぜいじゃく性があります。主要な産業は水産業で、2010年の輸出品の87%が魚介類(うち55%がエビ)および水産加工品となっています(デンマーク大使館ホームページより)。

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このような状況から、自治政府は経済的な中国資本の進出を非常に歓迎してきました。たとえば2011年、天津で開催された「中国国際鉱業大会」にもグリーンランド自治政府の鉱物・石油資源局担当者が出席し、投資説明会を開き中国人投資家に働きかける、といった活動がありました。

空港拡張計画への支援を中国に求める

そういったなか、空港開発問題が発生します。グリーンランドの主要な民間空港は、自治政府首都のヌーク(Nuuk)、ツーリズムの中心イルリサット(Ilulissat)、南部のカコトック(Qaqortoq)があるのですが、いずれも滑走路が短く、海外から直接ツアー客等が飛来するには、拡張工事が不可欠なのです。

その空港拡張工事に中国系企業が参入しようとし、デンマーク本国や米国が警戒する事態となったのです。

空港拡張計画が決定したのは2015年。総事業費の36億クローネ(約570億円)は島の域内生産(GDP)の約2割に当たり、当初デンマーク政府は負担に消極的でした。そこで、自治政府が頼ったのが中国だったのです。2017年、自治政府のキム・キールセン(Kim Kielsen)首相が訪中し、中国輸出入銀行などを回って協力を求めました。

この事態に危機感を抱いたのが米国・米軍でした。2018年5月にはジェームズ・マティス(James Mattis)米国防長官がデンマークの国防相に「中国に北極圏での軍事力を広げさせてはいけない」と直接警告したといわれています。その結果、デンマーク政府は空港拡張工事への慎重姿勢を一変させ、積極関与に転じました。