中国の投資に期待する独立派

同様の事態は過去にもあり、2016年に中国企業がグリーンランドにある旧米海軍基地施設を買収する案を持ちかけた際、デンマーク政府が米政府の希望を受けてこれを阻止した、とも報じられています(Erik Matzen, “Denmark spurned Chinese offer for Greenland base over security: sources,” Reuters, Apr. 7, 2017)。

こういった動きはグリーンランドの独立派を刺激することとなり、グリーンランド議会のヴィヴィアン・モッツフェルト(Vivian Motzfeldt)議長は「米国とデンマークは傲慢ごうまんだ。中国が私たちに投資したいなら、今後も排除しない」と、中国に対する期待を示す事態となりました(「(米中争覇)極地 北米に「親中国家」、危機感 米、グリーンランド買収構想」朝日新聞2019年8月26日)。このような情勢は自治政府内での内紛をもたらし、2018年9月には連立政府が崩壊するに至りました。

2018年には日本のテレビ局のインタビューに答えるかたちで、グリーンランド自治政府エネルギー相が、グリーンランドに投資して雇用を創出してくれるなら中国資本を歓迎すると述べていました。

2021年4月、レアアース/ウラン鉱山開発反対運動や、デンマークからの独立推進等の問題をめぐり選挙が実施され、政権交代が実現しました。環境を保護しつつも独立推進への動きが加速するという期待もあります(Martin Breum, “Greenland's new leadership will be challenged by a push for faster independence,” Arctic Today, Apr. 9, 2021)。

2023年4月には、独立への準備として、憲法草案が作成され、公表されました。いま、グリーンランドでは連立政権の下、様々な動きが進行中で目が離せません(Martin Breum, “Greenland drafts constitution for its ultimate independence,” Arctic Today, May 17, 2023)。

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