凡庸なようで、他社には真似できない手法

最近ではAIを駆使したデータ解析によるインサイドセールス(※2)も強固である。インサイドセールスで培った虎の子のノウハウをAIシステム化して「KI」というシステムとして外部販売し、全体の仕組みをブラッシュアップし続けている。

ここまで解説した、世界初を狙う開発にはじまり、マーケティングの自動化/MA、営業支援システム/SFA、顧客情報共有化、顧客ID制度、AIを駆使したインサイドセールス、営業からの提案制度などの打ち手を表明だけとらえると、マーケティング優良企業が実行している策と何ら違わず、凡庸に聞こえるかもしれない。

しかし私のクライアント企業の役員にキーエンスの事例を紹介して、「これら1つの施策でも実行を検討しないか?」と問うと、多くは導入が困難であると仰る。たとえば、多くの企業ではSFA、顧客情報共有化、顧客ID制度を導入しても、営業数字とボーナスを考えると、営業同士は顧客情報の共有化ができない。

(※2)インサイドセールス:内勤営業。マーケティング・営業プロセスの一貫で見込み客/リード顧客に対して非対面でおこなう営業手法。電話やメールなどで顧客関係性の維持・強化をおこないながら、すぐに受注につながりそうな見込みの高いリードを外勤営業/フィールドセールスに渡し、案件化機会を創出する

「やり切る力」が企業文化になっている

営業の立場からすると、ノルマぎりぎりで活動しているにもかかわらず期中に売上を上乗せされる可能性がある場合、案件を隠していたほうがうまく立ち回れる。その上に、追加ボーナスを獲得できる可能性まで高まる。よって、上司にさえ本当の案件進捗しんちょくの情報を共有化しないこともある。営業で言うところの「隠し玉」だ。多くの企業は前述の打ち手を一度は試験導入したが、失敗して苦い経験をしたことがあるようだ。

つまり、キーエンスの凄みは単に最新経営手法を使っていることではなく、自社にあった手法の「凡事徹底」なのだ。「やり切る力」が企業文化になっていることが成功の鍵なのである。