年明け以降、NWFの規模は再拡大しているが、これは流動性部分の実質的な枯渇を受けて、ロシア政府が歳入の一部を繰り入れるなどし、その回復に努めている結果と考えられる。このように、これまで財政を補塡してきた予備費に余裕がなくなっているということも、ロシア政府によるルーブル建て国債の増発につながっていると推察される。
ウクライナとの開戦直後は、原油高・ガス高というボーナスが生じ、それがロシア財政の追い風となった。しかし、昨年後半より資源価格は低下したため、そうしたボーナスは一瞬にして消え去った。反面で、戦争が長期化し、軍事費はかさむばかりである。国内の景気対策に伴う歳出も増えているため、ロシア財政は着実に余裕を失っている。
増発された国債を誰が引き受けているのか
ところで、国債が増発されるということは、その国債を引き受ける先があるということだ。では素朴な疑問として、ロシアで増発された国債を、いったい誰が引き受けているのだろうか。昨年6月の対外的なデフォルトによって、外国人投資家による新発債の購入は見込めなくなった。となると、やはり国内の投資家が引き受けていることになる。
国内最大の投資家となれば、金融機関、それも銀行ということになる。ロシアの銀行のうち、最大手のズベルバンクと第2位のVTBバンクは政府系だ。それに、第3位のガスプロムバンクは、ロシア最大のガス会社で半官半民のガスプロムの子会社でもある。こうした大銀行が、政府の意向を受けて、国債の保有高を増やしているのかもしれない。
そうはいっても、ロシアの貯蓄率の低さに鑑みれば、ロシアの銀行が買い支えることができる国債の量には限界がある。ロシア政府もその点は理解しているだろうから、国債の増発は計画的に行うはずだ。しかしながら、今後も歳入が増加せず、また歳出も削減できない状況が続けば、ロシア政府は国債をさらに増発させざるを得なくなる。
「財政ファイナンス」という禁じ手
そうなると、ロシア中銀による国債の買い支えが視野に入る。それでも、流通市場を経由して買い入れるなら、マネーの膨張はまだ抑制的となる。とはいえロシア中銀が、発行市場で国債をダイレクトに買い入れる事態、いわゆる「財政ファイナンス」が定着すれば、マネーの膨張に歯止めが利かなくなり、ハイパーインフレを起こす恐れが出てくる。