ハイパーインフレが発生すれば、ロシア国民に多大な犠牲がおよぶ。2024年3月に次期大統領選を控えるウラジーミル・プーチン大統領にとって、このようなシナリオは受け入れがたい。政府がまだ冷静な判断ができるうちは、国債の増発も計画的なはずだ。しかしながら、政府が冷静な判断能力を失えば、国債を乱発する事態になりかねない。
このままだとロシアは旧ソ連の失敗を繰り返す
財政ファイナンスはマネー面からインフレ高騰を招く恐れのある禁じ手だ。ロシアの前身国家である旧ソ連では、1970年代にはこうした状況が常態化していた。政府は数量統制(配給制)を強化してそれに対応したが、そうしてインフレ高騰を表面的に封じ込めても、結局は「長蛇の列」にかたちを変えることになった(いわゆる「抑圧インフレ」)。
今のロシアが、こうした旧ソ連のような状況にすぐに陥ることは、まず考えられない。とはいっても、ロシアが今後もウクライナとの戦争を止めることができず、また欧米との関係改善も見込めないなら、ロシア政府は経済運営の在り方を、旧ソ連時代のような統制色の強い、計画経済的なシステムに見直していかなければならないだろう。
もちろん、再び原油・ガス価格が高騰し、ロシアの歳入が急増する事態も予想される。しかしそれは、ロシア自身が分かっているように、一時的な追い風に過ぎない。ウクライナとの戦争を考えるのみならず、ロシアという国の経済の在り方を考えていくうえでも、変調が著しいロシアの財政の動向には、今まで以上に注視すべきである。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)