原油・天然ガスの価格暴落で収入減になった

ではなぜ、ロシア政府はルーブル建て国債を増発したのか。

ロシア政府は2023年予算法で、2025年までの3年間、財政赤字を見込んでいる。そのため、国債が増発されるのは自然の成り行きだともいえる。しかし見方を変えれば、それはロシア政府が、今後も財政収支が悪化すると覚悟しているということでもある。事実、ロシアの財政収支は昨年10~12月期以降、赤字を拡大させている(図表2)。

出所=ロシア財務省、ロシア統計局

財政収支が悪化した理由は、原油・天然ガス価格の下落に伴う歳入の減少と、ウクライナとの戦争の長期化に伴う歳出の増加にあるようだ。

ロシア政府は今年に入って、財政統計より、歳出の細目の公表を停止した。そのため軍事費がどれだけ膨らんでいるか具体的に把握することができなくなったが、財政悪化の主因は軍事費であると推察される。

政府は予備費を取り崩して経済を回してきたが…

他方で、政府の予備費に相当する国民福祉基金(NWF)が余裕を失っていることも、国債の増発につながっていると考えられる。NWFとは、原油高の局面で上振れした税収を、政府が積み立てた予備費である。昨年前半、ロシアの財政収支は黒字だったが、一方でロシア政府は、このNWFを取り崩すことで経済を回していたわけだ。

ロシア財務省によると、ウクライナとの開戦直前の昨年2月1日時点で、NWFの規模は名目GDPの8.9%に相当した(図表3)。

出所=ロシア財務省

その後は一貫して減少し、最悪期である今年1月1日時点には6.8%と、NWFの規模は3割近く縮小した。とはいえ、直後にNWFは回復に転じ、直近6月1日時点では8.2%となるに至っている。

NWFの詳細は月次で公表されていないが、NWFは運用部分と流動性部分(すぐ取り崩しができる資産)に分かれている。言い換えれば、NWFには、すぐに取り崩すことができる金額に限度がある。そのため、直近で規模が最も減少した今年1月1日時点で、ロシア政府はNWFの流動性部分のかなりの量を使い切っていた可能性がある。