なぜ英国でインフレが収まらないのか

ではなぜ、英国のインフレはこれほど粘着的なのか。最大の理由は、英国が欧州連合(EU)から離脱したことにありそうだ。英国は2020年1月末でEUから離脱した。このことが英国の供給力をさまざまな経路を通じて弱めた結果、米国や自らが袂を分かったEUに比べても、英国のインフレは深刻な状況になったと考えられる。

筆者は今年5月、4年ぶりにヨーロッパに行き、有識者と意見交換を重ねた。その際にロンドンも訪問したが、現地で異口同音に語られたのが、EU離脱が英国の供給力の低下につながったという話だった。特に聞かれたのが、それまでEUに加盟していたことで安価に抑えられていた物流コストが、顕著に上昇したということだった。

EU離脱に伴い、英国はEUからの移民・出稼ぎ労働力に制限をかけた。その影響は今でも強く、トラック運転手の不足は深刻なままのようだ。英国は短期の就労ビザの発行などの対策をとったが、結局は「焼け石に水」だった。通関手続きも煩雑となった結果、EUからの輸入に頼っていた生鮮食品が不足する事態も、散発的に生じている。

写真=iStock.com/RistoArnaudov
※写真はイメージです

供給力の低下で需要が満たせなくなった

そうした供給力の低下は、コロナショックを受けて需要が急減したときには、あまり問題にはならなかった。しかしコロナショック後の急速な景気回復で需要が盛り上がると、EU離脱で低下した供給力では、その需要を満たすことができなくなった。その結果、英国のインフレは、米国やEUに比べても、深刻で粘着的となったのだろう。

輸入品が不足しているなら国産品を使えばいいと考える人もいるかもしれない。とはいえ、国産品で輸入品を代替することは、どの国でもそう簡単ではない。とりわけ英国は、金融業で稼いだ所得で、農作物や工業品を輸入するという経済構造を有している。そうした英国経済が、これまで輸入に頼ってきたモノを国産ですぐ生産できるはずがない。

EU離脱に関する評価は中長期的になされるべきだが、少なくとも短期的には、英国の供給力の低下を招く結果をもたらしている。そしてそのことが、他の主要国を上回る粘着的なインフレを生む素地になったといえよう。所得の伸びもインフレに追い付いていないため、英国の人びとの生活は厳しい状況が続いている。

経済は弱っているのに買われる欧州通貨

BOEが利上げを強化した意味は、①金利高で内需を冷やすこと(需要抑制)と、②通貨高で購買力を高めて輸入を増やすこと(供給刺激)の両方の効果を狙うことにある。

もともと輸入依存度が高く、EU離脱で供給力を低下させた英国にとって、こうした高金利・通貨高政策は、マクロ経済の運営方法としては、極めて理にかなったものだ。