3900年前にも存在した「おならジョーク」

そうはいっても、時を超越したテーマもたしかに存在する。世界最古のジョークは、おならにまつわる、3900年前の古代シュメール(現在のイラク)のものだ。

(これは)はるか昔から一度も起きたことがない。夫の膝の上に座った若い女がおならをしなかった。

青銅器時代にしては悪くない、そう思わないか? 「一度も起きたことがない」と「おならをしなかった」という二重否定のせいで、ただちに意味を把握するのはむずかしいかもしれないが、視覚的効果はすばらしい。夫のロマンティックな情熱が、魅力的な若妻がその膝の上で発した音の結果、突然鼻も曲がる嫌悪に転じた。そしてもしかすると友人たちの前で恥をかいた様子が目に浮かぶようだ。

ここにはシチュエーション・コメディ的なエネルギーがある。これは紙に書かれた言葉――あるいは粘土板に刻まれた記号――よりも実演のほうがはるかに滑稽な、「語らず見せよ」という類のジョークなのだ。

だがジョンの質問は「最古のジョークは何?」ではなく、「最初のジョーク集はいつ書かれたの?」だった。両者はもちろん別物だ。ジョーク集は、読むために編まれるものだ。たとえ喜劇俳優が演じなくても、読んで滑稽でなければならない。さらにジョークの数も多くなければならない。ではこれはいつ頃までさかのぼるのだろう?

滑稽なジョークを披露し合った「60人クラブ」

古代ギリシア人はジョークをこよなく愛した。当時の劇作家のなかで一番笑える作品を書いたのが、アリストファネスだった。非常に独創的なシュルレアリズムと、なんとも下品なおならジョークは彼の生前から大ヒットし、死後も繰り返し上演された――その多くの部分が近代の翻訳者によって検閲され、無害化されてしまったが。

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ただし、彼の作品にはゲップやおならが繰り返し登場するが、アリストファネスは優れた一行ジョーク集を執筆したわけではない。古代の喜劇についてもっと詳しく知りたい人向きには、ケンブリッジ大学古典学教授のメアリー・ビアードの著作『古代ローマの笑い:ジョークとくすぐりと大爆笑』(未邦訳)をおすすめする。しかし僕のほうは演劇や詩歌や陶器は無視して、実際のジョーク集に集中したい。そこで登場するのが「60人クラブ」だ。

古代の文筆家アテナイオス(紀元2世紀頃)の作品『食卓の賢人たち』(全5巻、京都大学学術出版会、1997~2004年)には、哲学者の一団が夕食会で知的会話を楽しむ様子が描かれているが、彼によると、喜劇オタクだったマケドニア王フィリポス2世(アレクサンドロス大王の父親)は、ある時耳にしたという――アテネ郊外のキュノサルゲスという場所に建つヘラクレス神殿では、「60人クラブ」が定期的に会合を開いており、そこでは最も滑稽なジョークを耳にすることができる、と。

酒を飲みながら哲学談義を交わす60人の話し上手の会話は明らかに、数百マイル離れた敵国の王でさえ参加したいと願うほど質の高いものだったらしい。アテナイオスによれば彼らに最も優れたジョークを書き留めて送らせるため、フィリポスは多量の銀を送ったという。フィリポスが暗殺される紀元前336年より少し前に書かれたこれが、歴史上最初のジョーク集だったのかもしれない。